第9話 デラザ5

ドアがノックされる。


「おまたせいたしました。フウタ様、お食事の用意が整いました」

「ありがとう。すぐ行きます」


階段を降りて1階の豪華な部屋に案内された。白を基調にした落ち着いた部屋だ。絵画も飾ってある。

こちらにどうぞと、大きめのテーブルにレッドと並んで座る。


俺の前には、マーベリックさんとマディさんが座っている。両名とも笑顔で歓迎してくれている。

侍女が2名、壁際で待機している。食事や飲み物を運んでくれるのかな。


レッドはドラゴンオーラが漏れ出すのを、完全抑制してくれているようだ。

ドラゴンオーラが漏れ出したままでは、2人とも恐怖を感じて楽しい食事にならないからね。


「改めまして! 本日は私の家に来ていただきまして、ありがとうございました。命を助けて頂いた御恩は、別途、必ず返させていただきます! 商人は受けた恩は、倍にして返すのが昔からの決まりなのですから」


「盗賊退治は気にされなくて構いません。盗賊たちが弱過ぎて、倒すのに大した手間もかかりませんでしたから」


「あの盗賊たちは、この街の警備兵に引き渡しました。その際に盗賊討伐の謝礼として、金貨30枚をいただいております。彼らは有名な盗賊団だそうですよ! 討伐隊が何回か返り討ちにあっていたそうです! これをどうぞ、お納め下さい」


「有名な盗賊団だったのですか。あまり強くは感じませんでしたね! 金貨はありがたく頂いておきます。街での買い物に使わせてもらいます」


「ところであの時、フウタさんやレッドさんが使った技は何なのでしょうか?」

「あんなのは技とは言えないな。盗賊たちをひと睨みしただけだぞ!」


「確かに、レッドさんが近づいただけで、馬車を牽引している馬がおとなしくなりましたからね。あの馬は本当に乱暴な馬なので、大人しくなった様子を見て、私もびっくりしました」


レッドは、盗賊をひと睨みした場面を思い出したのか、抑制しているドラゴンオーラが少し漏れたみたいだ。一瞬マーベリックさん、マディさん、侍女さんたちの表情に緊張が走る……駄目だ……レッド……


……レッドの方をちらっと見る。

俺の意図することが分かったのか、ドラゴンオーラの漏れ出しが止まる。

全員の表情が笑顔に戻る……良かった……


「俺の使った技は、居合術という剣技です。自分の間合いを相手に分からせないようにしておいて、近づく敵を一瞬で切る技です」


「盗賊たちは、相手が悪かったということですね」

話をしているうちに、どんどん料理が運ばれてくる。


美味しそうな料理だ。特に肉料理の種類が多い。

料理が気に入ったのか、レッドが美味そうに食べている。


美味いなこの料理! 赤ワインで煮込んだ肉がトロトロになっていて最高だ。


「この肉は美味いですね。何の肉ですか?」

「この肉は、ホワイトバッファローです。赤ワインと野菜と香辛料で煮込んだ物です。気に入って頂けましたか?」


「最高です! 秘伝のレシピなのですか?」

「そんなものではありませんよ。マディ! 後で、フウタさんにレシピを渡して差し上げなさい」


「ありがとうございます。さっそく明日、材料を買って帰ります」

レッドの方を見ると、すごく喜んでいる。

レッドが喜ぶ顔をするのは珍しいな!


荒地に戻ったらレッドに、さっそくこの料理を食べてもらおう。


「ところで、ゴザリア国の事を詳しく教えていただけないですか!」

「もちろんです」


「この国を治めているゴザリア国は軍事国家です。兵力として、数万は動員できるでしょうか。戦争になれば剣技に優れた騎士団や、魔法を得意とする魔法騎士団が兵を率います。騎士の数はどちらも多いです」


「ゴザリア国は、常に国の規模を超えた軍隊を保有しています。そのため国の財政状況はいつも悪い。しかし国王はそんなことは無視です。無茶苦茶な税を徴収される国民は、たまったものではありませんよ」


「国の規模を超えて保有している軍隊を動かし、いきなり近隣国に攻め込むのです。近隣国にとっても本当に嫌な隣国だと思います。侵攻する理由は、攻め込んだ国の財産を奪うことなのです。もちろん奪った財産は軍事費になります」


「奪った財産を使って、また軍隊を増強する。増強した軍隊で、また近隣国に攻め込む。そうやって国を大きくしてきたのです。王は狂っていますよ。彼がやっていることは、不幸を広げているだけなのです」


「国の規模を超えて軍隊を保有し続ければ、高い税が課せられ続けることになりますね。民の暮らしは大丈夫なのですか?」


「農民は税を農作物で払わされます。そうなると農民は、自分たちが食べる食料がなくなります。食っていけなくなり、土地を捨てて逃げ出す農民たちがいます」


「商人も同じです。税が高いのでいくら商売に励んでも利益がでません。こんな感じで、全ての国民が暮らしていくだけで精一杯な状況になっているのです」


「私は幸いなことに、先祖が蓄えてくれた財産が残っていますので、まだ生活に余裕があります。しかしこの先は分かりません。国王は、商人たちが代々蓄えてきた財産すら、奪おうと考えているようなのです」


「冒険者たちも税が高すぎて開店休業みたいなものですよ。命を賭けて魔物を退治しても、ほとんど税金で報奨金を取られてしまいます。そうなると、誰も危険な魔物退治なんかやりませんよ。冒険者を辞めて兵士になるか、ガハリエみたいに、商隊の護衛になっていますね」


「何かいろいろ大変な国ですね。街の人たちが浮かない顔をしていたのは、そういう理由もあるのですね。しかし魔物を退治する冒険者がいなくなれば、魔物がどんどん増えてしまい、魔物に襲われる民が増えそうですね」


「そうなのですよ。軍隊は魔物退治などしません。困ったものです! ああ……済みません。暗くなる話しをしていまいましたね。本日はそんな事は忘れて楽しんで下さい。先ほど申し上げましたように、先祖の蓄えが十分ありますので、気になさらず楽しんで下さい」


「それにしても、聞けば聞くほどゴザリア王は駄目な奴ですね。彼はいったい、なにを目指しているのでしょうか?」


「分かりません。このデラザという街は、もともとシルティ王国が統治する街でした。シルティ王国は、人徳のある温厚な王様が統治していたのです。街の中では、人族やエルフ族や獣人族が楽しく暮らしていました。本当にあの頃は良かった。街のなかに笑顔が溢れていました」


「ゴザリア軍は、なんの通告もなしに隣国に攻め込んできました。いきなりですよ! いきなり侵攻してきたゴザリア軍に、シルティ王国は負けてしまいました」


「王族や貴族、騎士たちが命がけで最後まで抵抗したようです。王族や貴族連中もすべて処刑されました。噂ではゴザリア軍の中に、飛び抜けて強力な騎士がいて、そいつが勝利に貢献したらしいです」


「シルティ王国の生き残りの人たちはどうしているのですか?」


「農民や商人たちは、それぞれの街でそのまま暮らしていますが、騎士や兵士たちとその家族たちは、エルフたちと同様に、山間部に隠れ住んでいるようです。スラム街に隠れ住んでいる人も多くいると聞いています」


「我々を襲ってきた盗賊団も、ゴザリア軍に滅ぼされた国の人たちの、成れの果てともいえる訳ですね」


「彼らが行っている行為は悪いことです。褒められたものではありません。しかしその原因はゴザリア国にあると思います」


「街で奴隷狩りにあったエルフたちを見ました。あの様なことはゴザリア国でよく行われるのでしょうか?」


「そうです、先月は獣人たちが捕まっていました。国家が奴隷狩りでお金を稼ぐなんてどうかしていますよ」


「連行されていたエルフたちは全て女性でした、エルフ族には男性のエルフは少ないのですか?」

「いいえ、男のエルフはゴザリア軍に最後まで抵抗し、殺されたのだと思います」


「そうですか、どんどん悲しい話になってきましたね。話を変えましょうか。デラザの特産品はなんでしょう?」


「そうですね。話を変えた方がいいですね。特産品は武具や服ですかね。その類の職人は多いですよ。逆に不足しているものは野菜とか果物などの生鮮食料です……」


……その後……いろいろな話を聞いた。

ゴザリア国王が狂っていることだけはよく分かった。

食事も終わったので、俺たちは、明日の朝に街を出る事をマーベリックさんに伝えた。


食事を終えて、2人で部屋に戻ってきた。

俺はエルフの話やゴザリア国の話を聞いて、嫌な気持ちになっていた。

ため息が出る。話を聞けば聞くほど、あの荒地がいい場所のように思えてきた……


あの場所に俺が転生したのは、そういう理由なのか……


そういえばレッドは、人と時間の感覚が違うから、人族のことに興味がないと言っていたな。

奴隷にされるエルフにも興味はないのかな? 

助けてあげようとか思わないのかな……一応聞いてみるか……


「俺に力を貸してもらえないだろうか。この通りです……」

俺はレッドに深々と頭を下げる。


「話の内容によるぞ」

「奴隷にされようとしているエルフたちを助けたいのです!」


「そうきたか! いいぞ、あれを見て何も思わない様なら、おまえに興味がなくなるところだった。それでどうすればいい?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る