第51話 二つの存在が一つになる時
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焔から魔導兵器と戦略的核兵器が飛ばされた報告を受けた東城は特殊ブースターの出力を最高値まであげ空中で待機していた。
ハッチが開き焔から自由落下で降下した東城は小柳が作る幻術魔法に合わせて別行動を取っていた。可能な限り魔力の漏れをなくし、最悪の事態に備えていたわけだができるなら出番がない方が正直嬉しかった。だが此処まで来たら覚悟を決めるしかない。仲間すら欺いての作戦を提案した小柳だったが、その案に乗って良かったと思った。
「反応が消えた六道を倒したのか……」
可能性の問題として傀儡人形となった者がいるかもしれないリスクを考慮しての作戦。
六道の考えを読み切った作戦は順調に進んでいる。
だが、ここからが本番だ。
そもそもマッハの世界で飛ぶ魔法使いはこの世にいない。
ではどう対応するか、が問題となる。
答えは一つ。奇跡を起こすことだけだ。
「マッハ二十……目で追えないだろうな」
魔力レーダーで常に飛んで来るミサイルを感知していても、東城自身この速さで飛ぶ飛翔体に対応するのは初めて。
だから出来る自信は正直あまりなかった。
そもそも目で捉えてからの対応では間違いなく反応が遅れ意味をなさない。
マッハ二十を超える狙撃魔法など、狙撃系攻撃魔法に特化した国家公認の魔法使いやそれに近い者しか使えない。よって国内にも数人しか扱える者はいない。
そうなると、必然的に対応できる方法が限られる。
「前方に四発の核ミサイル。それをどうにかしても約三十秒遅れで来る魔導ミサイルが三発」
できる限り、頭の中でどう対応するかを具体的にイメージする。
魔力レーダーの反応も途中途切れ途切れといまいち感度が良くない。
だからこそ事前準備を大事にする。
そもそもダメージを与えるにしても、多くのレーダーを無力化する魔力障壁に守られていると報告を受けた東城は抑えていた魔力を全解放することで対抗を試みる。
瞬間魔力安定率九十五パーセント。
あふれ出る魔力が蝶の羽のように広がって形を作る。
目を閉じて、集中力する。
ここで自分の限界を超えなければ、この迎撃は失敗すると直感で分かってしまったから。
『理想は理想だ。理想を叶えるために現実を見ろ』
心の中から声が聞こえた。
東城明久は心の声に耳を傾ける。
「俺はどうすればいい?」
『一つに戻ろう。今日まで十五年の生を与えてくれたお前にはとても感謝してる』
「だめだ。それは真奈が悲しむ」
『ならリスクがある状態で一億人以上の命を危険に晒すつもりか?』
「違う!」
『既に分かっているはずだ。アルベルトが時期に復活する』
東城の魔力レーダーに反応があった。
それは同じ肉体を共有する和田明久にも感覚として共有される。
協会や自衛魔法隊の守備だけでは戦力不足だったことだ。
だけどここを離れるわけにはいかない。
だから最後の一秒まで現地の魔法使いを信じることにした東城。
奇跡は必ず起きるとそう信じて。
だけど現実主義の和田明久の考えは違った。
『綺麗ごとばかりでは自分が傷つくだけだ。前を見ろ。少しは大人になれ』
現状どうするが一番なのかを客観的に見て判断している。
『ミサイルに対してもそうだ。今のお前では良くて二割から三割程度の成功率しかない。それはお前自身が一番分かっているはずだ。俺の中にもお前の不安が流れ込んできた』
「だけど!」
『お前は千沙に何て答えた? そして小柳になにを託された? 仲間はお前に何を望んだ? 悪い……俺本当はもう限界なんだ……俺の存在がお前の力を制御して六道に真奈が傷つけられたと思うと……』
「でも六道は死んだ。後は真奈が目を覚ませば解決じゃないのか?」
『もし真奈じゃなくて小柳が同じ状況にあったらお前はそう言えるか?』
「…………」
『そういうことだ。これからの未来のために俺はお前に力を返す。真奈を頼む。真奈が愛した世界を守ってくれ……東城明久(オリジナルの俺)』
瞬間、東城明久の魔力安定率が上昇する。
そして魔力が和田明久に渡していた魔力が還元され、力も還元される。
開かれた目には力強い闘志が宿っていた。
そして涙も一緒に零れた。
だけど悲しんでいる暇はない。
和田明久に託された未来を守るために、黒魔法使いが完全復活する。
「ロックオン完了」
完全に全てのミサイルを感知しロックオンした東城が魔法を発動する。
「時間旅行(タイムトラベル)」
直径十五センチほどの小さな魔法陣が空一面を埋め尽くす。
魔法陣はそれぞれエネルギーを充填している。
そのエネルギーの全てが特別な力を持っている。
今の東城だから使える魔法だ。
そもそも和田明久とは攻撃的な人格とは別に攻撃的な魔法を主に与えていた。
逆を言えば今までの東城明久には攻撃的な人格と魔法がどこか欠如していたとも言える。
「包囲網形成完了」
どれだけ速いミサイルでも飛ぶ場所がわかっていれば、そこで待ち伏せして迎撃することは可能だ。
東城が失敗すれば日本全土を対象に七発のミサイルが放つ高密度な魔力と核によって日本を破滅に進めるだろう。
だけど今の東城はそれがわかっていながら、成功するイメージしかなかった。
防衛ではなく、攻撃。
これは戦争だと割り切った今の東城に迷いはなく、マッハ二十で飛んで来る核ミサイル四発を狙撃する。
「勝負だ! 六道!」
青白い光が魔力障壁を破壊するレーザービームとなって攻撃。その後個別に出力調整された魔法陣から照射された青白い光が核ミサイルの表面に刻印を刻んでいく。百を超える光が並行して刻印を刻むことで一つの魔術文字を素早く完成させる。刻印を刻まれた核ミサイルは四発とも東城明久の防衛網を突破して日本に向かって飛んで行く。
一瞬の攻防はすぐに終わり、第二ラウンドへ進む。
魔力回路をぶん回して、常時最高出力の魔力を維持している東城明久の魔法は一流の域に達していた。
むしろここまで来ると、努力の結晶が目に見える。
そもそも九十五パーセントと言う出力を安定して出すだけでも凄い。
正確な数は不明だが世界でも五百人もいないはずだ。
久しぶりに全力を出す東城明久の魔力回路の負荷が、体内で荒れ狂う。
ただし顔には一切出さず、涼しい顔で気合いの言葉を紡ぐだけ。
これが国家公認の魔法使いとしての東城明久の本当の姿。
「今の俺に小細工は通じない」
魔導兵器を守る魔力障壁を無数の攻撃で破壊する。
ただしミサイル本体には先ほどと同じくダメージを与えずに刻印だけを刻んでいく。
魔力レーダーで読み取った情報を元に中の物質には一切光や熱と言った外的な刺激を与えずに行われる。ミサイルを覆う物は何でできているか。その厚さは。その生成方法は。それらを分析した東城は静かに微笑む。
所詮は東南アジアから盗んだ物をそのまま流用していただけかと。
「距離と速度が分かればタイミングは計れる。それにミサイルの型式が分かればあとはなんとかなる」
この戦いは日本を守るだけの戦いではない。
既に戦う理由が変わっている。
東城明久が存在する限り、核や魔導兵器は意味をなさないと強者としての覚悟を見せる戦いでもあった。
東城が支配した空間を突き進むミサイルは勝敗を告げるように後二分程度で日本の各ポイントに落ちるだろう。
血が熱い。
こんな感覚はいつ振りだろうか。
感覚が冴え、鳥肌が立つ。
感情を抑えていた脳がそのリミッターを解除する。
「こんな物どこで爆発させても被害が出るってなぜわからない! 風が吹けば風上にいる生命体の無関係の命まで巻き込むってどうしてお前らは考えない!」
だったら、どうする?
追い詰められた時、人は進化する。
守りたい者を守るために、奇跡を信じて。
そして奇跡を象徴する魔法使いとして、小柳千里の隣に立つために相応しい魔法使いとして、今一度マジシャンとして――。
「愛理! 聞こえるか?」
すぐに無線機から声が返ってくる。
「はい!」
「魔法協会はどうなっている?」
「今総裁と坂本主任が高速輸送機で増援として戦場に急行しています」
パチン。
指を鳴らしマジシャンとしてのスイッチを入れる。
もう逃げるのは止めた。
もう綺麗ごとばかり言うのは止めた。
現実をしっかりと見た東城明久は魔力回路を回し続ける。
「頼みがある。――――戦闘員全員を今すぐ退却させて欲しい。どのみちアルベルトは復活する、これ以上無駄な抵抗をして死者を出したくない」
東城の言葉に愛理が「了解しました」と答える。
そして飛んで行くミサイルが小さくなっていくのを眺めて「千里が動いた時点でそういうことだろうな」と腹を括った。
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