第50話 大幻想魔法使い(ファントム・オブ・マジシャン)
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魔導兵器発動まで後三分。
東城の前には六道と由香里がいる。
「合鉄たちを倒したのか……いや黒魔法使い(ブラック・マジシャン)にしては早い。となると大幻想魔法使い(ファントム・オブ・マジシャン)か?」
東城の後ろに隠れるようにして立つ千沙隊に向けられる殺意と視線。
既に東城には興味がないと言わんばかりの態度に千沙隊の一人が口を開く。
「正解です。六道貴方の精神汚染は危険すぎます。ですが、私には効きません。魔導兵器を撃つ前の今なら貴方たちの降伏を受け入れます。既に勝敗は付きました」
チェックメイトと言わんばかりに小柳が宣言する。
千沙を残し東城を含めた千沙隊が消滅。
小柳が幻術魔法で作った偽物たちの存在に気づかれた以上、これ以上魔力を消費して維持する理由はなくなった。
誰が何と言ってもこの場のおいての最強は小柳千里ただ一人だろう。
幻術魔法分野においては東城ですらその足元に及ばない存在。
国内を超えて各国にも影響力を持つ小柳千里に対して六道は不敵に微笑む。
「いや、俺の勝ちだ。黒魔法使いの魔力レーダーなら探知出来ていたはずだ。それができない時点でここには居ないと言う事になる」
「なんの探知ですか?」
「どうやら考えていたことは同じってことだ」
「どういう意味ですか?」
「慌てるな。すぐにわかる」
「まさか?」
そこには通常兵器に混ぜて、歪な形をした兵器が飛翔していた。
数は三発。その正体は間違いなく魔導兵器。
これが日本に落ちれば一瞬で国家が消滅するだろう。
その危機感に脳が支配される。そして無線機からは『武装集団アシュラが博多湾に出現!』と悪い報告も入って来る。
「魔導兵器着弾まで十五分。アルテミスをこちらで足止めすれば魔導兵器と地上アルベルト様奪還部隊を止められる者は存在しない。仮にアルテミスが分散してそれぞれ対応しても俺を相手にできる者は限られている。つまり主戦力はこのエターナル基地に残る」
「自分を囮にしたのですね?」
「あぁ。そして魔導兵器を迎撃しなければアルベルト様が復活する。しかし地上部隊を無視すればどの道アルベルト様が復活する。疲弊した今の協会と自衛組織程度では俺が送った部隊を止めることはできん。既にお前たちの統括が福岡を離れたことも確認済みだ。多忙なスケジュールを持つ者は大変だな。同時に幾つもの危険分子を相手にしなければならない」
「なるほど。ですが、こちらも切り札はあります」
「ほぉ? それはここから飛んで行く戦略的核兵器にも対応できるのか?」
「貴方! なんてことを考えているんですか!?」
「アルベルト様を解放しないお前たちが選んだ選択だろ? こちらは手段を選んでいられない。アルベルト様がいなければ俺たちはもうじき巨大になり過ぎた為に死ぬ。だから手段は選ばない」
奥歯を嚙み締めて、拳を震わせる小柳は近くに立つ千沙に言う。
「小型超電磁砲で敵主要施設を攻撃してください。兵器工場は焔に任せて、それ以外をお願いします」
「了解」
返事をしてエターナル基地に存在する主要施設への攻撃に向かう。
後を追うようにして。
「アイツを殺してこい」
「かしこまりました」
一礼して、千沙の後を追いかけ始める由香里。
小柳と六道が残った戦場では、二人の魔力反応が上昇する。
抑えていた魔力を解放する。
二人の魔力量は小柳が気持ち少ない程度と殆ど遜色がない。
「救いようのない方ですね。これだけ警告しても全然耳を傾けてくれない。保護すると何度も言っているのに……」
ここまで来ては仕方がないと潔く諦める小柳。
もし東城がいなければここまでしていなかった。
武力での戦いを好まない恋人に影響を受けたからこそ、わかったこともある。
こんなことを毎回していては心が物凄く疲れてしまうことだ。
「メンタルブレイク」
六道が小柳千里の心に干渉を始める。
「その目……勝利を確信しているのですか?」
「すぐにわかるさ」
「その程度の精神攻撃は私には効きませんよ?」
「魔力消費量を見る限り、アブルートの維持だけでもさぞ辛かろう」
これなら最初から本気になっておけば、と六道は後悔した。
この程度のプロテクトその気になればいつでも破壊できる。
ただし大量の魔力を使うことにはなるが、力技が通じないわけではない。
なにより抵抗する為に、小柳自身も魔力を大量消費すれば固有魔法すら発動出来なくなる。つまり先手さえ取れれば六道の中では勝てる自信があった。そのために会談中ちょっかいをかけた。あの時から六道は小柳の攻略を始めていた。もっと言えば敵を自らの懐に入れた時点で和睦と侵略の二つの作戦を同時進行で進めていた。
どちらに転んでも自らが望む未来が手に入るように入念に準備を進めていた。
北条真奈を殺すことで、その恋人である黒魔法使いに精神的ダメージを与えることで弱体化させることも最初から狙っていた。途中邪魔が入り、重症の所を連れて行かれたが、六道の企みどおり東城明久は心に深いダメージを受け弱体化していた。
そして東城明久が弱れば小柳千里も精神的な負荷を受けると読んでいた。
実際その通りとなったが、唯一の誤算があるとすれば小柳千里に対しては思ったより殆ど効果がなかったことだ。
だけど六道にとってそれは些細な問題であって気にすることではなかった。
なぜならこの場で勝てれば何一つ問題がないからだ。
「貴方が自分の力に絶対的な自信を持っていてくれて助かりました。私は常日頃からアブルートを五重展開しています。つまり今の魔力消費量は正しくて違います」
「俺はアルベルト様と東城明久の遺伝子を体内に取り組んでいる。魔力レーダーを使うことで俺は誰よりも正確に相手の情報を把握できる」
「貴方は見誤ったのです。本当の私を知るのはこの世界でただ一人東城明久だけです。その東城明久を侮辱し格下にしか見なかった貴方が本当に東城明久と同じレベルで魔力レーダーを使えると思いますか?」
「当然だ。現にお前たちの動きは手に取るようにわかる」
「では聞きます。今明久君は何処にいると思いますか?」
その言葉に始めて冷静な六道に冷や汗が流れた。
頬を流れる雫が地面に落ちる。
「わかりませんよね」
「……俺を欺いたのか?」
「はい。私がそう錯覚させました。私の幻術魔法はあの日から東城明久の心にリンクして魔力量や精度が減っているように周囲に見せていました」
「一ヶ月近くも魔法を常時使っていたと?」
「はい。中学時代から毎日疑似心を維持し続ける天才に比べれば一ヶ月程度とても短いものです。学園時代私はアブルートを常時展開する方法を明久君から学びました。如何に魔力消費量を減らし、如何に負荷なく持続させるか。その探求は今でも続いています。貴方が取り込んだ遺伝子はいつの時代の明久君のですか? 明久君は今も成長しています」
例えば三成長して二弱体化してもプラスマイナスで言えばプラス一となる。
東城明久がしていることはソレと同じ。
「明久君が国家公認の魔法使いの理由。それは卓越した魔力制御です。アシュラ隊全員で力を合わせて発動するジャミング魔法なら明久君の魔力レーダーを欺けるでしょう。そもそも常に進化し強くなる明久君に嫉妬し、私に馴れ馴れしく理由した理由は心の奥底で劣等感を感じていたからですね?」
「お、俺の心を読んだのか?」
「えぇ。貴方の前にいるのは、黒魔法使い(ブラック・マジシャン)の弟子である大幻想魔法使い(ファントム・オブ・マジシャン)です」
相手が認識した時には既に精神支配を終わらせ、六道の心の中を読み終えている。
いや、小柳のカミングアウトがなければそれすら気づかない。
これが幻術魔法の頂点に立つ国家公認の魔法使いとしての小柳千里の力。
精神攻撃を受けながら、逆に相手のプロテクトを素早く解除し偽のプロテクトを作り偽造する卓越した技の前に六道の顔が青ざめて行く。
「そして世間から注目される私に嫉妬するだけでなく、溺愛された明久君を羨み私の愛を貴方も求めた。東城明久の遺伝子を受け入れたと言っていましたが、正確には髪の毛から抜き取った遺伝子情報ですね?」
「や、やめろ! 見るな!」
「東城明久の遺伝子が私を愛している、その情報が良くも悪くも作用し私に対しても恋愛感情がある。だから由香里さんの愛に気づいていながら、敢えて遠ざけている。まるで和田明久君のように冷たい言葉と態度を取ることで。だけど由香里さんは北条さんのように側にいてくれる。だから迷ってしまう、どうすればいいのか? とまぁ、貴方たちがしてきた程度の真似事なら私も心を鬼にすれば簡単にできます。その先の永遠の支配までは流石にできませんがね」
「永遠の支配はアルベルト様に選ばれた俺たちアシュラ隊の特権。それをお前たちは禁忌魔法と呼ぶ。お前の魔力が切れるか、魔法を解除すればこの支配は終わる。だが俺たちの魔法は違う。リンクを切らなければいつでも干渉ができる」
「相手にも知られたくない秘密の一つや二つあります。相手の心をいつでも自分の心のように支配するなど人として最低です」
「う、煩い! その気になればいつでも……な、なんだと……なぜだ……」
「無駄です。貴方の心に干渉すると同時に貴方に変わり私が全てのリンクを切りました。もう貴方の傀儡人形はいません。北条さんが目覚めてももう貴方の支配下に入ることはありません」
やれやれ、と首を横に振ってから小柳は最後の言葉を六道に送る。
「あの世から見ていてください。奇跡が起きる瞬間を」
精神崩壊によって死を迎えた六道が地面に倒れた。
振り返って来た道を戻る小柳は魔導兵器と戦略的核兵器が飛んで行った先を見上げた。
どんなに頑張っても小柳の魔力レーダーでは魔導兵器と戦略的核兵器の両方を感知し続けることは無理だ。
ジャミング機能を持つ魔力障壁が薄く展開されているため、ある一定の距離で見失ってしまうからだ。それは東城明久もそうなのだが、効果範囲の広さが根本的に違う。だからこそ小柳は遠くにいる東城に後のことを託した。自分ではできない偉業を東城明久なら達成できると信じて。
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