第49話 嘘と現実の狭間に立つ魔法使い


 ■■■


「おいおい。そんなに急いで何処に行くんだ?」


 東城と千沙隊の進行方向を塞ぐ形で姿を見せたのは、合鉄、マリア、ベルの三人だった。

 三人共戦闘態勢に入っていて隙がない。

 魔力反応もさっき会った時は違い、巨大で揺るぎない強さを見せている。


「よぉ~、さっきぶりだな。今回は由香里様がいないが、逃げなくていいのか? へっへっへ、誰も助けてくれないぜぇ~」


 挑発的な態度を見せる合鉄に東城が一歩前にでる。


「相変わらず凄い魔力量だ。固有魔法を使えるだけでなく、三人だけでこちら五人の総量を超えている。流石は作られた生命体と言ったところか」


「お前たち国家公認の魔法使いの遺伝子情報を掛け合わせて作られた正に理想の魔法使いが俺たちだ」


「確か名前は合鉄、マリア、ベルだったか?」


 東城は千沙たちを守るように移動する。

 三人が使う禁忌魔法について実はまだ詳しくない東城。

 そもそも三人は使えるだけで何の禁忌魔法が使えるのかをよく知らない。

 噂では万物を切り裂く一撃『デストロイヤーソード』を使う合鉄などと言った噂があるが、違う国では神速の居合いで魂だけを狩り取る『デスサイズ』を使うなどとも言われている。

 そしてマリア。彼女は魂を失い死体となった肉体に自身の魂の一部を与え傀儡人形としてその者の記憶や経験を習得できるとも言われている。最後にベル。彼については全てが謎に包まれていて、戦場で一般的な攻撃魔法や基礎魔法以外を未だに見せていない三人の中では一番危険で未知の人物である。


「私はそこの小娘貰おうかな~。若い肉体だし、どんな青春送ったのか誰にも知られたくない秘密事全部見てからお人形さんにしてあげる」


「いい趣味してるんだな」


「ありがとう~。ってわけで守られてばかりの臆病者は合鉄とベルに相手してもらってね。私女の子にしか興味がないから」


 いやらしい目線を向けてくるマリアに千沙が大きなアクビを見せる。


「あれれ~、今回はこの臆病者で間抜け隊長が侮辱されても怒らないのね」


「まぁね」


 口元を手で隠す千沙の耳に声が入る。


「捉えた」


 動いて感知するより止まって感知した方が集中出来て感度があがる。

 それを利用して東城が使った魔力レーダーに六道と由香里の反応がでる。

 東城の狙い通りだ。

 それをいち早く察した千沙が感覚を共有し、六道と由香里の反応を確認する。


「おい、ベル! お前の魔法でコイツらのトラウマ抉ってやれ!」


 その言葉になるほど、と確信する。

 人の心に干渉するには、魔法使いが無意識で干渉防止用に展開しているプロテクトと意識的に展開しているプロテクトを突破することが必要とされる。

 あの日北条がなにも出来ずに負けた理由がわかった東城は納得する。

 こいつらは人の弱みや脆い部分を好んで貪って弄り倒すことを快楽としているのだと。

 常日頃から人は他人に知られたくない秘密の一つや二つが存在する。そこに攻撃を受ければ人の精神なんて紙切れのように簡単にボロボロになってしまう。だから魔法使いはプロテクトを掛けて自分を守ろうとする。

 そのプロテクトを破壊することに長けた魔法使いがベルなのだろう。


「どうした? しないのか?」


 東城の言葉にベルは答えない。

 変わりに苦しそうな表情を見せた。


「…………」


「どうした?」


「ありえない」


「だから、なにがだ!?」


「コイツ……アブルートを五重。ば、化物だ」


 心に干渉して、ようやく実力差を知ったベルは一歩後退する。


「終わりにしよう」


 瞬間、東城の魔力反応が急激に増大する。

 急に身体に掛かる負荷値があがり、合鉄、マリア、ベルが膝を着く。

 まるで重力に逆らうようにして必死に耐えているが、既に全ての意識を抗う事だけに使っていて魔法発動の兆候は見られない。

 油断。どんな時も油断した方が負ける。

 実力差関係なく、その僅かな油断が命取りになることはよくある話。


「心に干渉がお前たちの専売特許だと思った時点でお前たちの負けは確定していた」


 初めにマリアが重力に押しつぶされて死ぬ。

 抗うことすら許されなかった。

 次にベルが同じく重力に押しつぶされて死ぬ。

 逆に精神を支配されたことを悟るも脳が誤認を続け、錯覚死を迎えてしまう。

 最後まで力で抗った合鉄も重力に押しつぶされて死ぬ。

 死ぬ間際に聞こえてきた声に、喧嘩を売る相手を間違えたと悟るも遅かった。


「私も誤認しそうになる……」


 千沙は小さくそんな声を呟いた。

 全て知っていても、脳が勘違いしてしまいそうになる。

 そのレベルが二流の幻術魔法だとするなら一流は。

 全て知っていても、脳が騙されてしまう。

 ではその上がもしあるとするなら、こんなところだろうか。

 全て知っていても、脳が現実だと認識してしまう。

 そのレベルが幻術魔法の頂点だろうか。

 国内で最高峰の実力を持つアルテミス総裁小柳千里。

 彼女の幻術魔法は千沙から見れば次元が違い過ぎた。

 弱い者に強い者に隠す。と言う発想も彼女の考えだった。

 戦術としては立派とは言えないかもしれない。

 でも命懸けの戦いで大事なことは勝つことでも負けることでもない。

 死なないことだ。

 相手が世界ルールを違反していても、正攻法で勝つ力がある。

 それが魔法使い小柳千里だった。


「もうどれが本当で嘘かわからない……」


 千沙の脳は既に嘘を現実と認識し始めていた。

 そして東城と小柳だけが嘘を嘘そして現実を現実と正しく認識していた。

 だけどそんなことはどうでもいい。

 今は急がなければならない。

 東城たちは宮殿を出た六道と由香里を追いかけ始める。


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