[未來編] プロローグ 独立公認魔法部隊アルテミス
第37話 独立公認魔法部隊アルテミス
埋もれた天才は――天才と呼ばれる者たちに認められた。
天才と呼ばれる者たちは知っている――魔法の原典。
この世に万能の魔法使いは――存在しない。
巨大空中戦艦アカツキ型一番艦――暁。
最先端の科学が集積して作られた。
ソレは国家公認の魔法使いの一人小柳千里が立ち上げた独立魔法部隊――アルテミスが管理している。
西暦二〇五六年七月三日月曜日。
時刻はPM十時三十七分。
館内が慌ただしい。
緊張の糸が張り巡らさせている。
沢山の入電対処に追われるオペレーターたち。
慌ただしい声が飛び交い、事態は一刻を争っていた。
「艦長、日本政府から入電です!」
愛理の声に艦長の大和武蔵が意識を向ける。
小柳千里からアルテミスを任された男は四十一年の経験を元に冷静にこの状況を把握していた。また戦闘経験も豊富なことから戦場の状況把握能力も高い人物だ。
「どうした!?」
「座標番号一三〇、二四〇六、三三、三五二四で世界から指名手配を受けている禁忌魔法使い集団アシュラからの救援依頼です!」
西暦二〇五六年六月十二日。世界からテロリストとして国際指名手配を受けた武装集団アシュラが出現。報告を受けた小柳千里が率いるアルテミスはアシュラと交戦するも北条真奈が重症となり、苦渋の決断のもと退却した。それから三週間後。再びアルテミスに救援依頼。人員が負傷している中での依頼に頭が痛くなった艦長の大和武蔵が小さく頷く。
「状況は?」
「はい。現在福岡特別魔法協会から魔法小隊並びに自衛魔法隊の中隊が博多湾海上で交戦中。しかし戦況悪化により本国に侵入されるのも時間の問題、とのことです」
「了解!」
返事をすると、大和は東城明久に連絡を入れる。
「――とのことです。お願いできますか?」
「わかりました」
受話器を置き、集まった戦闘員に声を掛ける東城明久。
「各員に告げる。特殊ブースターを装着しろ。戦場に到着後千沙が隊を引き連れて速やかなに敵艦隊を無力化。ただし気を付けろ。戦場は敵艦隊の上だ」
「了解。それであんたは?」
ショートボブの黒髪が特徴的で男勝りな性格を持つ女の名前は秋元千沙。二十七歳の現在は小柳千里率いるアルテミスの戦略攻撃部隊の一員として活躍。五大元素魔法を高いレベルで扱うことができ、戦闘能力も高い。また収縮魔法を得意で一撃が重たい攻撃を得意とする。また魔道具と呼ばれる魔力を媒体にする武器の扱いも得意。その一撃を持って傾いた戦場の流れ変えろと東城の言葉の意味を察した千沙は質問した。
「何処かの艦に全軍を指揮する者がいるはずだ。そいつを見つけて叩く」
「なら、俺はどうする?」
秋元千沙の彼氏で学園時代からの腐れ縁の坂本達也が東城明久に声を掛けた。
普段はアルテミスのオペレーター兼情報収集部隊を統括する責任者をしているが、非常事態においては自ら最前線に出る等『彼女思いで友達思い』の一面を持つイケメン。ただしイケメンだが中身が腐っている為、千沙や愛莉からは呆れられている。
「千沙の援護並びに戦場の通信網確保を頼む」
「オッケー。でもそんなに混乱しているのか?」
襟足が隠れるまで伸びた茶色の髪の毛をゴムで結ぶチャラ男の質問に東城が答える。
「味方艦が二隻落とされたらしい。そのせいか戦場と直接連絡が取れないと聞いた。事態は深刻かも知れない」
「了解」
皆の顔を見て確認を取る東城。
攻撃隊隊長であり、政府が認める優秀な魔法を使い。通称国家公認の魔法使いと呼ばれている一人だ。
「こちら戦略攻撃隊。準備が終わりましたのでハッチを開けて下さい」
管制塔に東城が指示を出した。
すぐに返事が来て、ハッチのロックが解除される。
「了解しました。一番ハッチ開きます。ご武運を」
対魔法戦闘装備を整えた七名が高度四千メートルから戦場に向かう。
一刻を争う状況。
突然攻撃を受けた福岡特別魔法協会。
ここが落ちることは絶対にあってはならない場所の一つ。
かつて世界で禁忌魔法とされる転生魔法を使い不老不死となった男――アルベルトが地下の特殊牢獄に眠っているからだ。そんなアルベルトは禁忌魔法使い集団アシュラの頭。人知非道、身体に掛かる負荷が大きい、などの理由から全世界魔法協議会で決められた世界ルールを悪として許さない集団。扱うことができる者は扱えばいいと言うのがアルベルトの考えである。そんなアルベルトを奪還しようと夜襲を行う者たちが居た。
一般市民が緊急避難を始めてまだ数十分。
だが、避難率はまだ三パーセントしか終わっていない。
「アシュラ兵に告げる。こちらは独立魔法部隊アルテミス。速やかに攻撃を止め撤退せよ。尚この勧告に従わない場合、武力行使を持って排除させてもらう」
福岡特別魔法協会のスピーカーに遠隔操作で繋がれた無線機の声が戦場に響く。
そこに銃声と悲鳴も鳴り響く。
魔法が飛び交い綺麗で悲しい炎が人の命を燃やす。
戦争とはいつの時代もあってはならない。
人の命が無駄に消えてしまう。
それでもソレを好む者たちが存在し続ける限り、戦争はなくならないのだろう。
そんな戦場に駆け付けた戦略攻撃隊の声にアシュラ兵の意識が空へと向けられる。
「チッ、アルテミス。来るのがやけに早かったな」
東城明久が魔力レーダーを使い、広範囲に敵の状況を把握していく。
夜の暗い海。
艦隊が放つ僅かな魔力や熱源。
魔法使いが放つ魔力。それ以外にも魔法使いではない者が放つ熱源などもスキャン対象として正確に把握し暁に情報を送る。
「こちら東城。今送った情報を戦闘員に共有お願いします」
「東城隊長了解です。情報共有開始。……完了」
愛理の声が無線機から聞こえる。
各戦闘員がデバイスに送られた情報を速やかに確認する。
夜空から舞い降りる七つの光。
それを見たアシュラ兵は攻撃の手を緩めるどころか激しくする。
「ミサイル一番二番撃て! 手が空いている後方魔法部隊は遠距離攻撃魔法――風弦の矢でハチの巣にしてやれ!」
甲板から放たれる戦略兵器と魔法の数々。
敵主力艦隊に設置された自動高速迎撃魔銃が一秒間に三百発の速度で火を噴く。一発で厚さ三十センチのコンクリートの壁が吹き飛ぶ破壊力を持つ代物兵器。それが三機あり降下部隊を殺すために動き始めた。
「各員魔力障壁展開と同時に特殊ブースター起動! 対空砲火によるダメージコントロールは忘れるな」
「「「「「「はっ!」」」」」」
特殊ブースターが起動し、空を自由に飛ぶ羽となる。
機動力を得た独立魔法部隊アルテミスは敵を翻弄し、空から中距離型魔法ビーム銃で対抗する。
飛んできた魔法を撃ち落としていく戦略攻撃隊。
的確にそして冷静に。
東城が仕込んだだけあり、百発百中の命中率を誇る。
空中戦にも慣れていることから、動きにも無駄がない。
また空中でのアイコンタクトやハンドシグナルを利用した連携攻撃もレベルが高い。
三人と二人のグループに別れた戦闘部隊は千沙から徐々に離れていく。
「もたもたするな。音速ミサイル三番から六番撃て! アイツらを撃ち落とせ!」
「各員。迎撃!」
千沙は自分に飛んできたミサイルに遠距離魔法サンダーボルトを発動する。
さらに魔力を弾とするマシンガンで追加攻撃を行い撃ち落とす。
「コイツら……都市ごと破壊する気なの?」
銃火器が照らす眩しい光が真夜中の海を照らす。
アシュラ兵が使う艦隊には大量の爆薬が積まれている。
もしこれらが地上付近で使われたら大惨事は免れない。
千沙が空中で姿勢を取り魔力を練る。
「副隊長。左舷から敵魔法航空隊です!」
「数は?」
「六です。ここは私たちにお任せ下さい!」
「なら任せた! 超電磁砲起動!」
背中に背負った小型超電磁砲を取り出して起動する。
魔力を素早く限界まで充填していく。
エネルギー出力八十、九十、百。
千沙はしっかりと狙いを付け、超電磁砲を敵艦隊に向けて撃つ。
オレンジ色に光る一撃は空から標的を撃ち抜く。
光は消え、辺りに静けさが戻ると超電磁砲は二発目の準備に入る。
もはや魔力砲弾というよりレーザー光線に近い。
光の残像がなければ、多くの者はなにが起きたかすらわからないだろう。
雷のような轟音が遅れてやって来る。
鼓膜を破るような衝撃波に戦場の空気が変わり始める。
千沙の視界の先では、海の藻屑となった艦隊が沈んでいる。
海面を貫き、大量の水を巻き上げた光は、打ち終わっても光の線として残像を残す
射程距離は七百メートルではあるが、超電磁砲の名に恥じない近代兵器は千沙専用に改良されているため、エネルギーのロスが少ない。
「二発目!」
天からの裁きが下るようにそれは上空から艦隊に向けられる。
オレンジ色の光はレーザー光線のように一直線に進んで再び敵艦隊を藻屑にしてしまう。
「三発目!」
そこから前線の敵艦隊が全て沈むのに時間はかからなかった。
千沙の超電磁砲を前に敵は成す術なし。
連射して砲身が熱くなったことで、白い湯気があがっている。
背中に装着した特殊ブースターのウェポンラックに小型超電磁砲を引っ掛けてしまう。
前線部隊勝利に合わせ、福岡特別魔法協会との連絡が回復。
「隊長? こちら千沙だけど任務は殆ど終わったよ」
「ありがとう」
「これより残党兵の処理に入る」
「了解。俺も後方部隊倒したら合流する」
無線の通信が終わった東城は敵の後方部隊を襲撃する。
そこにテレビやニュースで見覚えのある顔の男が一人居た。
今回の首謀者である。
パチンッ。
東城が指を鳴らす。
存在しない物が存在し、存在する物が存在しない世界に見せられた者たちは東城を攻撃しようと武器を構える。
アシュラ兵が躊躇なく銃火器の引き金を引く。
喉が異常に乾く。
考えている時間はない。
幾ら弾が貫通しても、微動だしない東城に敵が畏怖する。
なぜだ、なぜだ、なぜなんだ? どうして弾は当たっているはずなのに……どうして!? と。
東城明久は魔力レーダーを使い、魔力の乱れから敵が慌てていることを既に把握している。
と、言っても後の祭りで時間を掛けるつもりはなかった。
「ば、バカな……これだけの攻撃を受けて無傷だと?」
アシュラ兵がそう思った時には既に遅く、自分たちが既に殺されている事にすら気づかない愚かな者たちが恐怖する。
幻術を掛けられ脳がまだ生きていると思っているアシュラ兵たちは再び銃口を東城に向ける。
「う、撃て!」
パチンッ。
登場が二度目の指を鳴らすと、アシュラ兵たちの幻術が解除され魂が抜かれた人形のようにバタバタと倒れていった。
後始末を部下に任せ、心配だからという理由で応援に駆け付けた千沙は小声で言う。
「ったく、自分の手を汚さずに勝つなんて次元が違うわね。東城隊長は」
これが魔法使いの頂点に立つ者の一人。
幻術魔法一つで敵を圧倒した東城。そして幻術魔法の頂点に立つ小柳千里。
千沙はこの時。アルテミスが持つ最高戦力の二人はやはり魔法使いとしての格が違うと感じられずにはいられなかった。
「こちらアルテミス戦略攻撃隊長の東城です。敵指揮官の死亡を確認。前線の後始末は我々が行いますので、皆さんは負傷者の救護活動を優先してください」
「了解した。助太刀感謝する。我々は一度後退し救護班と連携を取る」
福岡特別魔法協会から連絡が東城に宛てに入る。
そして前線を離れ後退していく兵士。
「了解」
夜の空で行われた会話は敵が逃亡を始めたことを確認して行われた。
逃げるアシュラ兵を狙撃しようと後を追う素振りを見せた千沙を止める。
「真夜中の海は特に視界が悪い。無理はしないで」
追撃をしないことに不満の顔を見せる千沙。
それは怒りが隠された顔でもあった。
それでも東城は首を横に振る。
気持ちがわからないわけじゃない。
気持ちがわかるからこそ行かせることができなかった。
「三週間前! 真奈になにされたと思ってんの? 仇をとるなら今でしょ!」
「…………落ち着いて」
「わかった……ごめん」
だけどすぐに謝って自分の任務に戻る千沙。
東城は部下を危険な目に合わすことを性格的に嫌う。
アシュラ兵が逃亡した先にまだ見ぬ敵が暗闇に潜んでいるかもしれない。
東城の魔力レーダーは優秀だ。
だけど東城より優秀な魔法使いがそれをかく乱させてくるかもしれない。
レーダーの弱点を付いてくるかもしれない。誤認させてくるかもしれない。
それは可能性の話。だけど万に一つあり得る話でもあった。
それは三週間に行われた欧州地区救援依頼と深く関係する。
当時は北条を先行させ敵侵略部隊を追い込み、東城と千沙が背後から奇襲した。
予想通り不意を突かれたアシュラ兵はその数を減らし、最後は逃亡した。
それが敵の罠だった。
敵兵が逃亡した先にはアシュラ隊と呼ばれる向こうの主戦力が息を潜んでいた。
アシュラ隊は六名で構成され、アルベルトの側近で構成されている。
魔法使いとしての腕は全員一人前。
特に六道と呼ばれる男はアルベルトに変わり今の禁忌魔法使い集団アシュラを統括している。
その男もまた禁忌魔法を使う。
異常な魔力反応に異変を察知した東城がかけつけると死にかけの北条と部下が居た。
何とか東城の機転で北条と部下を連れて逃げることができたが、後数秒遅ければ全員死んでいただろう。
北条はまだ深い眠りの中にいる。
当時北条に預けた部下たちもまだ回復していない。
そんな過去から東城は逃げる者たちを見逃すことにした。
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