第31話 聖夜の魔法が送る初恋 5


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 和田は北条が買って来てくれた焼きそばや焼きおにぎり、フランクフルト、たこ焼きを半分ずつ食べていく。

 その間、口を動かしながら少し考えごとをする。

 初恋相手がまさか小柳千里だったとは夢にも思わなかった和田。

 そう思いたが、蓋が取れた初恋(心)はとても素直で。

 今までなんとなくその予感がしていたが見てみぬ振りをしていた、とわかってしまった。

 蓋することで抑えていた炎は酸素を取り込んで大きくなった。

 今なら小柳を選ぶことも可能だ。

 小柳を選べば、和田はあの日諦めたはずの初恋の続きができる。

 それは多分……和田が思っている以上に幸せな日が待っているはずだ。

 お互いにまだ好きと言う気持ちが残っていて、惹かれ合っている。

 だったらその未来は存在してもいいはずだ。


『き、期待しています』


 最後に聞こえた言葉。


 これは私に告白することを期待している、と考えるのが妥当だろう。

 小柳も女の子。

 やはり好きな人には告白するより告白されたい側だろう。

 中学の時も告白は和田からだった。

 一世一代の告白、それはロマンティックで女の子の心に一生残る想い出となるだろう。

 そう考えれば、やはり男の和田からの告白を待っていると取れる。

 さっきは勢いで期待させる台詞を吐いたが、本当に勢いだけででた言葉で実はそこまでのマジックができる自信はない。

 相手の期待。つまりハードルを上げればどうなるか、それは身を持って知ったはずなのに何一つ学習していない和田は自分にため息がでた。

 正直に話して、謝るか? と考えるが、期待していると言われた以上、小柳の心に残るようなマジックをするしか道はないのだろう。

 その時だった。

 違う、そうじゃない。ともう一人の自分が訴えてきた気がした。

 そして。初恋相手だったから、特別見栄を張ってしまった。と聞こえた気がした。

 なんにせよ、初恋の炎はまだ消えていないと言うことがわかった。


 今心が惹かれる相手は二人。北条と小柳。

 本当に難しい。


 何が難しいって。気遣いができる。気持ちに寄り添ってくれる。応援してくれる。事情を分かってくれようとする。謙虚で素直。相手の期待にしっかりと応える。困っていたら手を差し伸べてくれる……などいい所が沢山あり過ぎる。他にも考えれば山ほど出てくる。


 まさに皆の理想のアイドル。

 選ぶなんて恐れ多い。

 こんな不器用な男よりいい男なんて沢山いるはずだ。

 それでも二人は望む――和田(東城)の選択。

 幸いまだ時間はある。

 どちらかを選ぶにはまだ時間は……ある。

 なにがその先に待っているか分からないから今まで蓋をしてきた過去。

 臆病風にびびりながらも立ち向かい、和田は自らの手で心の蓋を取ってありのままの気持ちと真剣に向き合うことを決めた。


「それでどうしたんだ?」


「なにが?」


 もぐもぐと食べていた焼きそばを呑みむ北条の顔があがる。


「なんか嫌なことでもあったか?」


「なにもないけど?」


 小首を傾けてきょとんとする北条に和田はデコピンした。


「いてっ!?」


「ばーか、何年幼馴染してたと思ってんだ。他の奴は騙せても俺はわかる」


 その言葉に北条は口を尖らせる。


「だって~」


「だって?」


「めちゃくちゃ不安なんだもん……さっき小柳さんと会ったんだ。その時の顔がとても幸せそうだったから……」


「そういうことか」


「うん」


 二人の間に静寂でちょっと重たい空気が流れる。

 このままでは二人して気分が沈んでしまいせっかくの文化祭が台無しになると考えた和田は指を鳴らす。


 パチンッ。


 するとシンプルなデザインが特徴的なネックレスが一つ手の中に出てくる。

 チェーンのようなシンプルなデザインに小さな石が埋め込まれている。

 石は赤色で、キラキラとして美しい輝きを放っている


「トパーズの意味はわかるか?」


「う、うん……」


「今はこれくらいしかしてあげれない。でも気休めにはなるだろ?」


 パチンッ。

 もう一度和田が指を鳴らすと北条の首にネックレスが瞬間移動してかかった。


「はぇ!?」


 北条の頬が熱を帯びる。

 首元に掛かったネックレスを手で触れて確かめる。


「こ、これ……幻術じゃない本物だ。本当に魔法使えるようになったんだ」


「まぁな。この二日間薬飲みながら血反吐吐きながら頑張ったからな」


 そう言って和田はポケットから取り出した薬を口に放り込んで水で流し込む。


「それより、少しは嫉妬おさまったか?」


 不安ではなく、嫉妬と言われたことに抗議するように北条が体を近づける。


「し、嫉妬!? 私が? なんであんな女狐に嫉妬なんかしないといけないのよ!」


「本音出てるぞ?」


「べ、別にいいでしょ! それより嫉妬してないからね、私!」


 この慌てよう、間違いないと確信する和田は鼻で笑った。

 オブラートに包む余裕すらない所を見ると、どうやら図星のようだ。


「可愛いな、顔真っ赤にして」


 北条は一瞬でゆで卵のように顔全体を真っ赤にして、後ろを向いて顔を隠した。

 頬杖を付いて、背中越しに和田が声を掛ける。


「最近見てて思ったんだが、真奈って俺に構ってもらえたらなんでも嬉しいんじゃないかって思ったんだが意見を聞いても?」


 ビクッ!!

 北条の体が反応した。

 なんとも分かりやすい反応だけに和田としてはもう答えを聞く必要はない、と思うがせっかくなので本人の言い訳を聞いてみることにする。


「そ、そ、そ、そんなわけなじゃない。別に構って貰えて嬉しいとか一ミリも思ってないんだからね!」


「……と、言われても説得力がなー」


「な、なによ。私を疑うの!?」


「だってな……」


「だからなによ……言いたいことあるならハッキリ言ったら?」


 相変わらず背中越しの声に和田は「やれやれ」と指を鳴らす。

 すると。

 椅子に座っていた北条が瞬間移動して和田の前に来て抱っこされる。

 その顔はにやけている……いや、喜んでいる……いや、照れている……とにかく照れ隠しが下手くそな顔があった。

 和田の座標変更(ポジションチェンジ)で北条は自分が急に抱っこされるとは思っていなかったのだろう。


「ほれ」


 そのまま和田は真奈の胸ポケットにいつも入っている手鏡を取り見せてあげる。

 言い訳ができない顔をしっかりと見た北条は拳を握って、ポコポコと小さい子供のように精一杯の反抗をする。


「ばか、ばか、ばか、ばか、ばか……」


 いつもはしっかり者だが、和田の前では女の子になる北条は気が動転しているのか和田の手を取り自分の大きな胸に当てる。


「ほら! 心拍だっていつも通りだもん!」


 手を掴まれた和田が押しつけると程よい弾力で押し返してくる胸の感覚があった。次にいつもより鼓動が強くて早い心臓があった。


「そうだな、いつも通りだな」


「そ、そうよ。分かればいいのよ、分かればね」


 胸を張って威厳を護ろうとする北条だったが、和田はなにも言わない。

 これ以上は北条の心が羞恥心に耐えられないと思ったのと、本人はこれでもまだバレていないと真剣なので可愛いそうだと思ったからだ。


「でもね、私に構って欲しい時は今まで通り沢山甘えてきていいからね!」


「……そうだな、助かる」


 女の子になった北条に和田は頷く。


「――ッ!?」


 すると、北条がようやく今の状況に気づいて、素早く立ち上がって捲れたスカートをなおす。


「えっちな私は学園では絶対に見せないから!」


 北条は念押しするように言いきった。


「それは残念だなー」


 それを頬杖付いたまま棒読みの如く和田は答える。


「まぁいいわ。と、とにかく気分転換に何処か見て回らない?」


「だな」


 昼食を食べ終えた和田と北条は教室を綺麗に片付けてから、文化祭に戻る。

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