第30話 聖夜の魔法が送る初恋 4
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小柳千里は先輩を探して階段を一気に駆け下りて探しに行こうとしていた。
心臓が破裂しそうだ。
屋上を出ていく前。小柳は知ってしまった。言葉の意味を。
「ヤ、やばい……私が大好きだった明久君が居た」
どんなに強がって捨てたと言っても小柳千里はマジックが好きだった。
それは今の日常でマジックの本を読んでしまうぐらいに。
ただ公に公開することがなくなっただけ。
ずっと憧れて好きだった人が自分を立たせてくれると言った、それはマジシャンのヒロインにしてくれると言う意味だろう。なにより初恋相手のヒロイン。つまり――小柳千里の中では一番大好きな黒魔法使い東城明久が今夜特等席で見られると言う結論になる。
心臓の動機が激しく息が続かないので、途中で一休み。
「こんなにドキドキしたのいつ振りだろう」
心臓を抑えてなんとか落ち着こうと頑張る小柳。
だけど心臓は逆で動きを止めたのにドキドキと激しく動き続ける。
顔の火照りも収まらない。
喉も急に渇いてきた。
体が全身で反応してしまう。
自分の体なのにそうじゃないみたい。
それだけ小柳が本気だった証拠でもある。
最後は恥ずかしくて逃げてしまった。
だってあんなにカッコいい東城明久を見たのはいつ振りだろうか。
もう嘘は付けないし、心の中に留めて置けない。
「だ、大好き過ぎて私どうしたらいいんだろう……えへへ」
にやけまで止まらなくなってしまった。
これではしばらくここから動けない。
これより先に行けば生徒たちが多く居て見られてしまうからだ。
「へぇ~お相手は?」
「あ、あきひさくん……あっ」
突然の声に思わず反応してしまった小柳の表情から笑みが消える。
「北条さん。珍しいね、こんな所で会うの」
「そうね。まさかあきに昼食を持っていく途中で小柳さんに会うとは思わなかったけど」
「随分と仲が良いんだね」
「そりゃ~私とあきの仲だからね」
二人が放つ殺気がぶつかり合い周囲の温度を冷たい物にしていく。
「ちなみに知っているかな? 私明久君の初恋の相手なの」
「そうなの? 私はあきの幼馴染で彼女だけど?」
「でも幼馴染ってよく負けヒロインとして扱われるよね?」
「半同棲している私に言う言葉じゃないと思うけど?」
偶然近くを通った生徒たちが慌てて逃げて行く。
いつ衝突しても可笑しくない二人の作り笑顔は穏やかじゃなかった。
「もっと言えば最近お泊りして同じベッドで寝る仲だけど?」
「へぇ~それもうすぐ終わるけど大丈夫? 一人で寝れる?」
「それは負け惜しみかしら?」
「違うよ。明久君甘えん坊さんでポカポカしてて気持ちいいから急に一人になったら寂しく感じちゃうかなって思った私からの心配だよ☆」
「へぇー。まるで寝たことがあるみたいな言い回しね」
「付き合っていた時、マジックの練習ついでによくお泊り行ってたからね」
「可笑しいわねぇ、まさか学園のアイドルから喧嘩を売られる日が来るなんてビックリだわ」
「凄いね、泥棒猫さん。まさか私から喧嘩を売られてるのに気づくなんて」
「私やっぱり貴女のこと嫌いだわ」
「奇遇だね、私も貴女のこと嫌いだよ」
「「ふふふっ、あはははは~」」
二人が衝突するかと思われた時、屋上から足音が聞こえてきた。
「ったく、アイツ遅すぎだろ……」
お腹の虫を泣かせた和田の声に二人は「ふんっ!」それぞれの道を歩き始めた。
北条はそのまま近くの空き教室に和田を案内してそこでご飯を食べることにした。
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