第14話 もう一つのフィーリング 8
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「なにかあったのか?」
翌日。
朝の教室はいつもよりざわざわしていた。
「おっす。朝から仲良しなんだな」
いつも通り席に座り朝のHRを待つ和田に声を掛ける坂本。
「ん?」
「まぁ、そっちは後でいいや」
「なんのことだ?」
「別に……それより隣見ろよ」
和田は坂本の視線に続いて隣にいる小柳千里を見た。
そこには昨日坂本が正体を掴めなかった、一つ上の先輩に学園のアイドル小柳千里がマジックを見せて楽しそうな時間を送っている光景があった。
「小柳があんなに親しく誰かとそれも教室で話てる」
「珍しいが別に驚くことでもないな」
「お前本当に感覚可笑しいって」
「そうか?」
「あそこまで親しげに男子と会話する小柳今までに見た事があるか?」
自然な微笑みは心の底から会話を楽しんでいるから。
誰かの幸せを願うなら、別に気にするようなことはない。
口元を手で隠して笑う小柳は上品で可愛い。
そんな小柳が先輩に取られたと嘆く男子生徒たち。
どちらの味方か?
もし誰かに問われれば嫌われている男子生徒より好意を寄せてくれている小柳の味方と答えるだろう。
だから自分にワンちゃんある!
そう思っている者たちとは判断基準が違うし、反応も違って当然と言える。
「ない」
「だろ?」
ただマジックが終わり始められた会話が、聖夜の魔法についてと言うことを考えれば男子生徒の気持ちもわからなくない。
意識を向ければ聞こえてくる会話は。
「なら聖夜の魔法は一緒に行動するか?」
「うん! ちゃんとリードしてね」
「わかってる。でも本当に俺でいいのか?」
「いいよ?」
「ほら、仲の良い女子友達と周りたいって最初言ってたじゃないか?」
「本当はね。でも私と一緒だと……皆に迷惑かけちゃいそうで」
まるで聖夜の魔法の先約はもういます。
そう聞こえなくもない会話だった。
仲の良い女子は「私たちのこと考えてくれてるんだ……」「ちっひーの気持ち優先した方がいいよね……この雰囲気……」と少し残念そうな表情を浮かべていた。
「目前に迫った聖夜の魔法。小柳ほどの相手だと多くの男子が目を付けて当たり前か」
こちらも少し残念そうに、現実を見始めた坂本。
「お前いつか本当に彼女に殺されるぞ?」
「安心しろ」
渋い顔で決める男は――。
「昨日宣告を受けた。私以外と聖夜の魔法過ごしたら別れて殺すからって」
和田は思う。
千沙はとことん坂本に甘いと思うと。
この手の人間は一度本気で痛い目を……いや十回は痛い目を見ないと懲りない。
なのに、いつもこんな感じで宣告し、それを護れば許す。と……。
そこまで考えた時、和田は分かってしまった。
「更生はないと諦められているのか」
そして、納得した。
和田より千沙の方が坂本のことを深く理解しているのだと。
「それよりコイツ誰なんだろうな?」
やはり、まだ正体がわかっていないらしい。
坂本は声を小さくして、和田と近くの先輩を交互に見る。
「お前小柳とは仲良いだろ?」
「そこそこには」
「聞いてくれない?」
「気になるならお前が直接聞け」
「俺が聞いて教えてくれると思うか?」
その言葉に「そうだな」と返答する和田。
どう考えても坂本と小柳の距離では教えてくれないだろう。
そもそも坂本は情報集めには特化している部類の人間。
将来は魔法情報通信局系統の職に就きたいと豪語するほどに。
事実、学園内でも一部の限られた人間しか知らない和田の本名も調べてきた。
なぜ偽名なのか? 過去に受けた質問から全部は無理だったようだが。
そんな坂本ですら全く把握できていない男子生徒。
なにかあると考えると気になって仕方ないのかもしれない。
「ならアイツと仲が良いお前の彼女に頼めばいいだろう」
ゴホッゴホッ。
隣から聞こえる咳払いは小柳の物。
そんな小柳と千沙は仲がよく一緒にお昼ご飯を食べたり、授業中行動したり、と周りのクラスメイトたちより親しい関係にある。
「断られた」
「なら諦めるんだな」
「そこを頼むよー。なっ? 俺たち友達だろ?」
「友達ねー」
「なっ? 悩むのかよ!」
「悩むだけありがたく思え」
「はぁ~もういいよ。自分で聞くからよ」
最初からそうしろ、と思ったが和田は言わなかった。
坂本に多くの男子が注目し始めたので、変に目立ちたくなかったからだ。
「なぁ、小柳」
坂本の声に嫌な反応を一切見せず。
いつも通りの可愛らしい微笑みの小柳。
「どうしたの?」
これが学園のアイドル。
どんなに嫌われている男からの投げかけにも完璧に反応する。
まさに理想の彼女。それが小柳千里。
「その先輩誰?」
ゴクリ。
その言葉に多くの者が聞き耳を立てる。
急に静かになった教室は今緊張に包まれていた。
神様に祈るように両手で拳を作る者。
真剣な眼差しでこの後の結末をしっかりと見ようとする者。
ポケットからラブレターを取り出し渡せる未来を願う者。
そんな多くの者たちが欲しかった答え。
もしも、の時のダメージが大きく誰も聞けなかっただけに、流石女好き大魔王はスゲーと賞賛の声も微かに聞こえてきた。
「秘密!」
やっぱりダメか……と普通ならここで諦めるだろ。
でも――。
「彼氏?」
「どうだろうねー」
「そもそもその先輩本当にうちの先輩か?」
ここで諦めない男が坂本だった。
「どういう意味かな?」
「俺の知り合いの先輩に聞いたら知らないって言われた」
突然始まる坂本と小柳の駆け引き。
クラスの視線だけじゃなく廊下の視線も二人に集まる。
「学生証ある?」
「あるぞ」
先輩は学ランの内ポケットから取り出して坂本に見せる。
「もし嘘と思うなら先生に確認した方が早いと思うよ」
生徒手帳を見て、頷く坂本は。
「既に昨日確認したが、転校生はいないと聞いた」
「うん。だって正式には今日から転校生だからね」
なるほど、と納得して坂本は駆け引きから降りた。
「確かに転校生の情報とかは非公式情報扱いされることもあるな。悪ぃ変なこと聞いて」
「納得してくれたなら良かった」
結局皆が一番気になっていることは分からなかった。
だけどこれで辻褄が合った。
先日和田たちが見たこの先輩は本当に実在する先輩だったこと。
和田の偽名の件と言い教師陣は知っていても知らない振りをすることが多い。
それだけ多くの個人情報を常に取り扱っているからだ。
安易な情報漏洩は学園の信用を落とすことになる。
そんなわけで非公式に編入試験が行われることも良くある。
国家公認の魔法使いなどが編入してくるときなどは特に。
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