第13話 もう一つのフィーリング 7
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夜の九時過ぎ。
隣の家から座標変更で和田の部屋にやって来た北条は苺のパジャマ姿。
他の誰に見られることもない。
なぜなら家には二人しかいないからだ。
そのためお風呂あがりで熱いという理由で北条がパジャマのボタンの第二ボタンまで開けているため、視線をそこに向ければ豊かな胸の谷間がガッツリと見える。
だからと言って和田の視線がそこに向けられることはない。
それとえっちな視線を向けられないことから特に恥じることもない北条が居た。
今この家には和田と北条しかいない。
夜の事件が起きても誰にバレる事はない。
「へぇ~、そんなことがあったんだ。なんか意外かも」
「真奈にしては冷たいな」
北条と別れて屋上でなにがあったのかを説明する和田。
普段人が困っていたら手を差し伸べることが多い北条だったが今は違った。
「うん。私小柳さんのこと嫌いだから」
滅多に人を嫌いということがない北条。
「なら仕方ないか」
「理由聞かないの?」
「嫌な予感がするし止めておく」
「あー、大丈夫だよ。性格的に嫌いなタイプってだけだから」
「いつから?」
「私が授業以外で話す所見たことある?」
「ない」
「つまりそういうこと」
「間違っても本人に聞かれるなよ?」
「あきにしか言わないよこんなこと。私たちってもう幼馴染って枠超えて仮の恋人になったじゃん? そうなってまで隠しても意味ないじゃん。私があきのこと好きって言うトップシークレットもバレてるし、今日だって同じベッドで寝るんだし、ありのままの私をもう見せるしかないじゃん」
北条の言う通り、既に幼馴染って関係を超えた二人。
先日の言葉から北条は和田との結婚を望んでいる。
つまり北条にとってこの関係すら二人の通過点程度にしか考えていないのだろう。
これからなにがあっても二人一緒の未来を思い描く北条は、今まで以上に和田に全てをさらけ出す。
「だから手を貸すなとは言わない」
「わかった」
「言い方悪いけど上手くいけばその過程であきの心の療養にもなるかもしれないからね」
「ん?」
「あきの心が疲弊したのは特定の誰かが原因ではないよね?」
「あぁ」
「それと一緒で沢山の方向からの程よいアプローチが今のあきには必要かな? って私思ってるんだ。だからあきにとってプラスになる可能性があるなら私はいいよ」
北条は北条で和田のことを考えていた。
これからどうサポートして支えていくか。
「体冷えたらポカポカ与えられないから、一緒にベッド行こう」
部屋の電気を消して、ベッドの中に入っていく二人。
二人の顔を照らすのは、カーテンの隙間から差し込む月の光。
「今日は一人じゃないよ。わかるかな、私の温もり」
もぞもぞと動いて、優しく伸ばされ巻き付く腕。
湯たんぽのように暖かい温もりが和田に伝わる。
「きゃぁ!?」
突然の可愛らしい声。
「もぉ、おバカさんなんだから」
和田が伸ばした手が北条の胸に当たった。
けど怒るわけでもなく、横向きになる和田に軽いデコピンをして終わらせる北条。
「もしかしてワザとだった?」
「ちがう」
「ならラッキーハプニングだったね。それでどう? 心の方は?」
「いつもとそんなに変わらない」
「そっかぁ。私の心は今安心感と幸福感に満たされてるよ?」
心臓の鼓動が強くなって全身が火照り始める北条の体はどこまでも正直だった。
勝手に足が動いて和田の足に絡めて、離れないようにする。
「ほら、誰もいないんだから、遠慮しないで」
それは中々手が出てこないことによる不服を表す言葉。
目がすわり、とろ~んとなる。
北条の脳が本能に従い、ぷるんっと柔らかい唇をゆっくりと近づける。
違和感に気づいた和田が逃げようとするが、既に足が絡み合い、上半身は密着するぐらいに抱きしめられていて動かないことに気付く。
「真奈?」
「なぁ~に?」
ピンク色の世界を望む純粋無垢な女の子は止まらない。
「まだ仮なんだよな?」
「そうだよ~。でもね~既成事実は大事ってことで――」
重ねられた唇はとても熱くて柔らかい。それでいて甘酸っぱい。
弾力があって、甘い吐息が触れ合う瞬間――嘘か本当かわからない感情が生まれた。
北条の小さくて可愛らしい手が和田の胸に当てられる。
「誰の目もないんだから、臆病にならないで。それに今日は私がここにいる」
月日が経ったことで欲しい気持ちが成長して、抑えきれなくなった北条は告白する。
「和田明久君。ずっと前から愛しています。だから私の心に春を下さい。その代わり私は無償の愛を永遠に捧げると約束します」
お互いの温もりを感じ合う二人。
体が溶けてしまいそうな感覚に脳が溶けてしまいそうになる。
北条から伝わる鼓動。
それは北条の豊かな胸越しに伝わる心臓の動き。
その鼓動がどこか気持ち良くて安心できる。
そう思った和田は珍しくベッドで睡魔に襲われた。
例えるなら今の北条は心の守護番人。
怯える感情をもう一人の自分(恐怖)から守ってくれる存在のようだった。
絶対に護ってくれるそんな信頼から生まれる信用に大きなアクビがでる。
そして意識が遠くなっていく和田は最後に天使の微笑みを目に焼き付けた。
「――甘えん坊さんで可愛い」
一人になった北条は無防備に寝る和田を見て。
「もう幼馴染に戻る退路はないよ。それに何だかんだ最後ドキドキしてくれてたね」
優しく頭を撫でながら、心の声を口にする。
「――てかぁ~手出してよ……」
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