第11話 もう一つのフィーリング 5
「無駄に疲れた」
「私も~」
体を和田に預ける北条は疲れ顔のまま質問する。
「それより最近ちゃんと寝れてる?」
「そこそこ」
「心配だから今日夜お泊り行っていい?」
「わかった」
頷く和田。
帰宅後部屋の片づけをすることに決める。
そこまで散らかってはいないが、人様をお出迎えする必要最低限の……とまで考えたがやっぱりいいかとしないことに決め直す。
今さら掃除しなくてもなにかを言ったり思うような関係ではないからだ。
「話変わるんだけど、私居ないタイミング狙われてない?」
「だれに?」
「小柳さん」
その言葉を聞いて「あ~」と声が出たのはそう言われればそうかもと。
和田の中に思い当たる記憶があったからだ。
「あきが教室居ない時ね、たまにキョロキョロして教室出て行ったと思ったら一緒に戻って来たりあからさまに距離感可笑しくない?」
「そうなのか?」
「だって他の男子の所には基本自分から行かないのに、なんであきの所だけには行くの? それも二学期になってから頻度が増えてる気がする……。今朝だって二人で屋上から私を見てたでしょ?」
「気付いていたのか……」
「そりゃ気づくわよ。背後から刺すような視線向けられたらなにごと!? って普通思うでしょ。その様子から見てあきが気付いてなかったのはわかった。けど、少しは警戒心って物を持って欲しいかな……彼女としてはね」
「一回ぐらいこっちから会いに行ってみるか」
その言葉だけで和田の意図を正確にくみ取る北条。
流石幼馴染と言うべきだろう。
しかしここで北条は不安の色を見せる。
「会うって言っても向こうのタイミング以外で小柳さんが一人の時って少ないよ? かといって皆の前で話かけたら多分凄い罵倒の嵐がくる……よ?」
一理あると納得する。
控えめに言ってクラス中相手にするのは正直面倒くさい。
厳密にはその対応であり、陰口程度ならまったく気にしないのだが、そう上手くはいかないのが現実。
それに今はバカが噂を流し始めた頃でもある。
そうなると和田だけでなく北条にも面倒事が降りかかるかもしれない。
だけど思い悩んでいたら噂のせいで余計に動きにくくなるかもしれない。
和田は少し悩んだ。
そして――結論を出す。
「だったら尚更今日しかないか」
和田は噂が変に広まった後より広まりきる前の方が世間の目は緩いと考えを改める。
「今どこにいるか心当たりでもあるの?」
その言葉に和田が頷く。
それは一学期までは和田だけの特等席だった場所。
それが二学期になって二人の共有の場所となった。
「帰宅している可能性は捨てきれないが、多分屋上にでもいるんじゃないか」
「なるほどねー。あきが好みそうな場所だね」
「うん?」
「狙われてるって考えたらそうかな? って思っただけ」
その言葉は和田にとって予想外も予想外でびっくりしてしまった。
「はっ? 俺が?」
「あれ? 違うの?」
「ないだろ?」
「うーん……私としては今超複雑になっちゃった」
「どうして?」
些細な表情の変化から和田が本当に理解していないことを読み取ったのか、北条がゆっくりとした説明口調になる。
「なら一緒に考えていこう」
「わかった」
「そもそも小柳さんはなにもしなくても相手が選べるぐらいに男子の人気者。そんな人がわざわざ会いに行く異性って少なからず好意がないと会いにいかないと思うんだよね」
「なるほど」
「そもそもなんであきのことだけは名前で呼ぶのか。それもさっきの何かしらの好意があるからだと思うの。もし特別仲が良いとか好意とかもなかったら多分皆と同じ和田君って呼んでるはず」
「それはあるな」
「これはあき自身気づくのは難しいだろうけど、あきと話すときはいつも以上に楽しそうにしているように見えるの」
「ん?」
「あくまで他の人と比べての話。でも私も女だし気持ちはわかるって言うか……好きな人とお話できるだけで嬉しかったり心が満たされたりするもんなのよ女は特に。すると自然と笑顔が増えたり変化があることが多いわ」
「変化……変化と言えば昨日の放課後真奈も――」
鮮明に蘇る記憶に羞恥心を隠しきれていない北条は慌てて和田の口を両手で塞ぐ。
耳まで真っ赤になった顔は涙目と――。
「わわわわわわぁあ! それ以上は止めて……?」
上目遣いで和田にお願いする。
首を上下に動かして意思表示をする和田。
それを確認して口を解放する北条の手はそのまま胸に行き、深呼吸を始める。
それを見て涙目にも関わらず北条の頬がにやけていたのは……。
その答えは和田の心の中に留めておくことにした。
でないと、永遠に話が進まない気がしたから。
…………。
……。
北条の火照りと心臓の鼓動が許容範囲内に収まったタイミングで話が再開される。
「なにより私の個人的な意見としてはどうも私の目を盗んでいるような気がするのよね。もっと言えば敵対視されている……そんな視線だったわね朝感じたのは」
「全然気付かなかった」
「そんなわけであき」
「ん?」
「あきは今好意や敵意と言った外の刺激に対する感度が物凄く鈍いの。後は自分以外に向けられる仕草とかにも。これは……過去のこともあるから正直仕方がないと思う」
「だな」
「心が生きていく為に選んだ自己防衛だからね。感度を落とすことで生きる。それは生物として正しい選択だとも言える。私はそのことを理解しているし昔の心優しくて素敵なあきを知っているから、なんとも思わない……というかどんなあきでも好きな私がここにいるんだけど……。まぁ好きな人の変化には気付きやすいと言うか……結局のところ皆にも優しいけど、私には特に優しい所とか、私想いの部分が好きで……じゃなくて――」
途中でのろけ話に脱線していたことに気付いた北条は階段の壁を殴ることで、痛みで理性を取り戻した。
「――私に限らず好きな人の変化には気付きやすいの」
最後は強引に言いきった北条は「で、」と付け加えて続ける。
「私が言いたいことだけど、多分小柳さん私とあきが進展したの気付いていると思うの」
「それがさっき言ってた視線に繋がるのか?」
「うん。ほら私って結構男子に人気あるじゃん?」
「実際可愛いしそうだろうな」
ボンッ! どうやら北条の心は感度がとても良いらしく、やっと元に戻りかけていた顔が再び真っ赤になった。
心の感度が高すぎるのも大変そうだな、と内心思いつつ北条の言葉を待つ和田。
言葉で聞かなくても北条の心の中ではきっと感情がジェットコースターに乗っていて本人が制御したくても出来ないのだろと客観的に判断する。
「ん、まぁ、褒めてくれてありがとう……。嬉しかった……けど恥ずかしいから学園内ではほどほどに」
「お、おう……」
「話戻すと私が言いたいことは、そろそろ仕掛けてくると思うから絶対に目移りしないでね。ただそれだけ。ってことで行ってらっしゃい。夜に色々聞かせて? 私用事あるから先に帰ってる」
大きなアクビをしながら立ち上がった和田はポンポンと北条の頭を叩いて「了解。なら行ってくる」という言葉を残して歩き出した。
遠くなる背中を見送る北条は「ここまであきのこと好きだったとは思わなかった……。どうしよ……重たくて面倒な女って思われたら別れ話切り出されそうだし……でも心は事あるごとに馬鹿みたいにキュンキュンしちゃうし……はぁ~」と、頭を抱える。
北条は北条で夜までに一旦クールダウンする時間が必要だった。
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