第10話 もう一つのフィーリング 4
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放課後開始のチャイムが鳴る。
生徒たちが帰宅を始めるとその波に乗ってさり気なく坂本がハンドサインで和田にこっちに来いと合図を送る。
珍しいこともあるな、と思い、呼ばれるまま廊下を歩き、人が少ない場所に移動する。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
そこには北条真奈も居た。
理由があるなら、付き合うかと和田は二人からの言葉を静かに待った。
きょろきょろと周囲を何度も念入りに確認する坂本。
いつものおふざけパターンではなく、今日は真面目な話のようだ。
「昨日の放課後。俺たちのクラスに来た先輩覚えているか?」
「あぁ」
「面白半分で今日調べて見たら存在しないことがわかった」
「どういうことだ?」
「知り合いの先輩に転校生がいるか聞いたら、今年は一人も転校してきた生徒は居ないらしい」
あの場に居た全員が幽霊の姿を見て声を聞いた。
そんなオカルト現象はそうそう現実に起きないだろう。
だとしたら、なにか見落としがあるのかもしれない。
まるでマジックを見せられているようだ。
放課後に誰も知らない二年生の先輩。
小柳に聞けば教えてくれるかもしれないがどうだろうか?
そんなことを和田が考えていると、北条が口を開く。
「今度転校してくる先輩の線はないの?」
「北条さんの線も外れ。先生に聞いたら空振りに終わった」
「そんなことあるの?」
「あるんだな~それが。それさえわかれば俺にもワンちゃんあるかわかるんだけど……中々にこれが難しくて」
「なぁ、お前が調べた理由って――」
学園で今最もホットな話題である以上興味を持って調べることに違和感はない。
エントリーする前に相手のことを知ることは大事だからだ。
むしろ坂本のように狙っているのなら尚更。
だけど冷静に考えて欲しい。
一つ人として確認しておくべきことがここで生まれた。
「まだ遊ぶ相手として諦めてないわけ?」
その言葉にドヤ顔で即答する坂本。
「Yes,I can do it!」
それを見てドン引きの北条が坂本から距離を取る。
「うわぁ~きもっ」
人差し指を立てて否定する坂本。
「チッ、チッ、チッ、わかってないな北条さんは?」
「一応聞いてあげる」
「いつか千沙にも分かって欲しいと思ってるんだが――」
天井を見つめ、真剣な表情で、
「愛に生きた俺の生きざまを理解して欲しい。それは愛を求め、愛を与え、愛を貰う、ことで満たされる男の生き様だってことを!」
そう語る坂本は過去一番真剣な表情で言いきった。
そして北条に熱い視線を送って。
「だから北条さん。俺と愛を育まないか?」
プロポーズするように自分の第二ボタンを差し出す坂本。
「無理」
それは冷たい拒否の言葉だった。
そのまま身を隠すように和田の背中に隠れて「次そんなこと言ったら口聞いてあげないから」とただでさえ少ない女友達からの警告でもあった。
友達にしては冷たいようにも見えた態度。
もしかしたら――可能性で考えるなら。
和田が知らないだけで二人の距離感は知人や顔見知り程度なのかもしれない。
「ほら、ぼさっとしてないであきからも何か言ってよ。私の彼氏でしょ?」
どんなに拒絶されてもノーダメージの男は首を傾けた。
「んっ? 今なんて?」
悪い笑みを浮かべた悪魔に危機感を感じた和田は実力行使で口止めを試みる。
前触れもなく至近距離から放たれるソレは空を切る音と一緒に向けられた拳。
「甘いぜ? で、お二人の関係を改めて聞こうか?」
ギリギリで避けて肩を組むことで、簡単に逃げられなくする坂本。
「黙れ」
「おやおや、和田明久君にしては随分と攻撃的で慌てているように見えますが?」
挑発的な態度と言葉に和田が舌打ちする。
ハンデがなければ坂本など和田の敵ではない。
「手加減してくれるのは嬉しいが明久よ」
「なんだ?」
「男子の中で小柳の人気度が断トツ一位なのは知っているな?」
「あぁ」
「なら北条さんについてはどうかな、何位だ? にしっっ」
妄想を膨らませた瞬間に生まれた隙を和田は見逃さない。
素早く組まれた腕を掴み、足払いをして投げる。
「叶わぬ愛ならネタにするまでだぁ! 悪く思うな、友よ」
空中で受け身を取り、そのまま廊下を転がる。
その勢いを利用して立ち上がりながら逃亡を始めた坂本を力で止めても言いふらすだろう、と諦めた和田と北条はため息をついた。
二人はそのまま近くの階段を椅子代わりにして休むことにする。
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