第8話 もう一つのフィーリング 2
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北条が日直当番の日。
玄関のチャイムが早朝から鳴り、朝ごはんを食べる時間が勿体ないという理由で急かされる和田。
理由もわからず学ランに着替えた。
「ほら、遅刻しちゃう」
と、北条に言われ手を引かれるまま登校した和田は屋上に居た。
「朝の挨拶運動に巻き込まれたのかよ……はぁ~」
屋上から見る。
登校してくる生徒に挨拶兼身だしなみチェックを行う北条の姿を。
正門には風紀委員と応援枠として日直の一年生が居る。
担当制なのはまだいいとして。
今日から一緒に登校するからね! と道中言われた和田は「せめて明日からにしてくれ」と心の愚痴をボソッと吐いた。
「そこの生徒外壁上って侵入しない! 正門から入りなさい!」
校則違反した生徒が外壁からバレないように侵入しても、それを見逃す北条ではなく指を鳴らして強制的に違反者を自分の手元に呼び寄せる。
座標変更(ポジションチェンジ)。
空間認識能力が高くないと扱うことができない魔法の一種。
簡単に言えばRPGゲームのテレポートみたいな物で対象となる人や物体を飛ばす魔法だ。
「また腕上げたのか」
今年の一年生は能力がずば抜けた者が二人いる。
一人は学園のアイドル小柳千里。
もう一人は負けず嫌いの北条真奈。
北条の感知網に入ったら簡単に逃れることはできない。
知らず知らずのうちに見つかった三年生の先輩としてはショックが大きいだろう。
潜入用の魔法を使い校内に入ったと思った矢先、風紀委員の前に飛ばされるのだから。
「へぇ~。やっぱり凄いね、北条さん」
「…………」
「それにしても凄い魔力量と技術だね」
「…………」
(お前にはどちらも劣るがな)
「魔力を薄く放出して作られた魔力レーダー。あれだけ密度が薄いと無警戒なら私でも引っかかっちゃうかも」
クスクスと楽しそうに笑う声が聞こえる。
そのまま和田に近づいて「おはよう! 明久君」と横に立ち挨拶をする小柳。
「警戒しなくてもいいよ。明久君の時間を邪魔しに来たんじゃないよ?」
まるで心の中を見透かしたような声に。
「わかった」
安堵する和田。
「なら、このまま隣いるね」
「誰かに見られても知らないぞ?」
フェンス越しに正門から来る生徒を一望できる場所。
それは視線を上げれば正門からも見える場所と置き換えることもできる。
「それは全然いいよ。一応説明しておくと教室に居ると男子が昨日の人は誰ですか!? 恋人ですか!? 俺にもまだチャンスありますか!? ってうるさいから逃げて来ちゃったってのが理由だよ」
そろそろ聖夜の魔法の受付が始まる頃だ。
それを考えるとその男子生徒の気持ちも分からなくもない。
引っかかる物言いにチラッと疑問の眼差しをぶつける和田。
すると優しい笑顔で返される。
普通の男子生徒ならそれだけで勘違いするだろう。
周りに人がいなくて、わざわざ自分に会いに来てくれて場所が場所なだけにフライング告白してもいけるんじゃないか! と夢見ても可笑しくはない。
「お前。そんなこと言う人間じゃないだろ?」
「うん。皆の前ではね」
「ん?」
「明久君の前でしか言わないよ」
その言葉を聞いた瞬間。
ため息がでた。
「要約すると嫌われ者の俺を男避けに使ったわけか」
だから、他の人の前ではイメージが崩れるから言えない、が正解だろ?
と心の中で付け加えて。
「正解♪」
周りに対してひねくれているからパッと出た答えは正解だった。
でも嬉しいとは一ミリも思わなかった
なので、ひねくれた言葉で返答する。
せめてもの反撃だ。
「蚊取り線香かよ……」
「かもね。それにしても今日は昨日に比べてよく話すね。体調いいの?」
どうやら真っ当な人間には効かないらしい。
どころか気まで使われてしまう。
人としての品位の差を思わず感じてしまう和田。
「言われてみれば……そんな気もするな」
「それなら良かった。私の気のせいじゃなくて!」
「どこか嬉しそうに見えるが、嬉しいのか?」
「うん! もうすぐHRの予鈴鳴るから一緒に教室戻らない? 蚊取り線香君」
「おい!」
「うふふっ、冗談だよ明久君♪」
この時、和田明久は小柳千里の笑顔に疑問を持った。
それは些細な疑問。
最初に見た笑顔と今見た笑顔に差があると。
外敵から身を護るために養った洞察力には自信がある。
だけど。どちらも笑顔だがなんか違う、そんな気のせいに近い疑問でもあった。
だからわざわざ口に出してまで聞くことはなかった。
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