二章 もう一つのフィーリング
第7話 もう一つのフィーリング 1
天才――そんな呼び名で世間の評価を受けた者は弱さを隠して生きていることが多い。
小柳千里もその一人である。
十五歳で固有魔法を習得した。
それだけでも凄い。
だけど本当に凄いのは扱いがとても難しい固有魔法を高いレベルで扱ること。
空間支配に必要な環境認識。気候、空間設定、対象物・対象者の選定、時間軸の調整、等それらを独自の数値に換算し、独自の計算式に当て嵌める。その解を望む形に再構築することで膨大な魔力と精密な魔力操作で相手の脳もしくは世界を相手に騙すことで完成するソレは一般の魔法使いが扱えるようなレベルではない。
なにより難しいのは心ある対象となる人間の感情までも読み解く必要があることだ。
常に変化する人間の感情を経験則で読み取り解析することは、ほぼ不可能に近い。
だから才能がいる。
それらの一部を感覚的に考えなくても出来てしまうような才能が必要。
世間ではそう言われている。
それを知っている者たちは口を揃えて天才と言う。
でも違う。
才能だけじゃない。裏では才能で補えない部分を努力で埋めることで成功を掴んでいるに過ぎない。
それに数え切れない数の失敗をしている。
その失敗を成功するまで続けたに過ぎない。
『生まれ持った才能が違う』
最初から小柳と自分は違うと諦める者。
『ねぇ、仲良くなろうよ!』
小柳のおこぼれを貰おうとするお調子者。
『へぇ~凄いね。私にも色々教えてよ!』
急に仲良くなって慣れ慣れしく、話しかけてくる者。
『テレビ出ませんか?』
お金を生み出す道具として利用してくる者。
他にもあるが、どれもありきたり。
幸運か不幸か。
人の心を読むのに長けた彼女の前ではどんなに取り繕っても見え見えで相手にすることすら馬鹿らしいと思える人間が多かった。
特に一番厄介なのは下心を抱えた人間かつストーカー気質な人間。
アレは相手にするのが一番厄介。だって、中々諦めないから。
世界には人の苦労した部分は見ないで良い部分だけを見て羨ましがる人間が多いと知った十五歳の少女は一人夜になると泣いた。
有名になってからは皆の欲望の道具として見られていると知って。
だから心の中に誓う。いつか私が全部利用してやる、と。
そして気づいてしまう。本当の味方はもう近くに居ないと。
急に寂しくなった。
有名になる前の友情が懐かしいし恋しい。
何より恋しいのは……時が経っても色褪せない特別な想い出と特別な心。
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