第3話 美倉家へようこそ(1)
「おっす、夜空!」
「……ど、どうも」
謎の怪奇現象に見舞われた、翌日。
アレはきっと夢だったのだろう、うん、そうだ、違いない、と念じながら学校へとやって来た僕。
しかし、朝のホームルームが始まる直前の時間、またしても美倉三姉妹次女――ひかりさんが僕のクラスへと遊びにやって来た。
昨日に引き続き、真っ直ぐ突っ込んできたのは、僕の席。
どうやら、美倉三姉妹と身に覚えのない繋がりがあるという怪奇現象は、いまだ継続中のようである。
怖い。
ホラー映画やホラー漫画は好きだけど、自分の身には起こって欲しくなかった。
「ねぇねぇ、夜空ぁ、昨日帰るの早くなかった? いつもあれくらいに帰ってるの? 遊びに誘おうと思ってたら、いなくなってたから寂しかったんだぞー」
ひかりさんは、姿勢良く席に座って小刻みに震えている僕にまとわりつき、「何故~、何故勝手に帰った~、親友~」と絡んでくる。
「え、ええと……昨日は、なんていうか、早く帰って家の事をしないといけなくて……引っ越して来たばかりだから……」
周囲の視線など気にする事無く、ベタベタと接してくるひかりさん。
僕は居心地の悪さを感じながら、視線を逸らしつつ対応する。
そんな僕に、ひかりさんは「ん~?」と疑問符を浮かべた。
「夜空……なんだか他人行儀過ぎない?」
いや、他人ですし。
昨日が初対面のはずですし……。
「もしかして……アタシのこと忘れちゃった?」
……おっと?
まさか、彼女の方からそっちに会話を運んでくれるとは思わなかった。
思い掛けず訪れた渡りに船な展開に、僕はすぐさま反応する。
ここで、彼女に正直に告げるのが得策なのかもしれない。
僕達って初対面じゃないんですか?
どこかでお会いしましたっけ?
そう、思い切って切り出すのだ。
しかし、視線を向けた僕の目に映ったのは、とても寂しそうな表情を浮かべるひかりさんだった。
太陽のような、向日葵のような、輝くようないつもの彼女の笑顔は無く――本当に悲しそうな顔をしていた。
女子にそんな顔をされてしまったら、臆病者が本音で喋るなんて高等テクニックを行使できるはずがない。
「う、ううん……」
歯切れ悪く返すことしかできなかった。
僕の返事に、ひかりさんは「んふふ、だよねー」と嬉しそうに返す。
本当に、大親友みたいなテンションだ。
「そうだ、ねぇ、夜空」
ひかりさんは、しゃがんだ姿勢で机の上に両腕と顔を乗せて、僕の顔を覗き込むように見上げる。
「放課後、どこか遊びに行こうよ」
そして、そう提案した。
「え、遊び、に……え?」
「どこでもいいよ? カラオケでも、ゲーセンでも、夜空の好きなところで」
「……え、ええと、どう、だろう……」
見知らぬ女子と二人きりになる事に対する恐怖心から、僕はひかりさんの誘いに優柔不断な感じで返してしまう。
「あれ~? あんまりそういう気分じゃないか」
僕の反応を見て、ひかりさんは「んー……」と頭を悩ませる。
「何、ひかり、どっか遊びに行きたいの?」
「じゃあ、俺達も誘ってよ」
そこで、僕達の会話を傍から盗み聞きしていたらしい他のクラスメイト達が、ひかりさんに声を掛ける。
普段からひかりさんと親交のある男子生徒達が、これは好機と乗ってきた様子だ。
が。
「んー、ごめん、今日は止めとく」
ひかりさんは、サラッと拒否した。
「今日は夜空と一緒に居たいからさ」
ニッと笑って自然に言っているが、中々の大胆発言である。
「な、なぁ、ひかり、ちょっと聞きたいんだけど」
その発言に、男子生徒の一人が溜まらず尋ねる。
「お前と、その、夏野って、どういう関係?」
そう、それは僕も聞きたい。
是非聞かせて欲しい。
「うん? 友達だよ、ただの」
「本当に? 本当にただの友達?」
そこで、ひかりさんはえへへー、と笑う。
「そう、友達……まぁ、親友かな。一番の」
一番の。
唖然とするクラスメイト達。
僕も内心唖然とするしかない。
「あ、ごめん、夜空。話の途中で……じゃあどうしよっかなぁ」
ひかりさんが僕の方に顔を戻す。
今日一緒に遊びに行く云々という話は、継続中だったようだ。
「あ、そうだ、良いこと思いついた」
少し考えた後、ひかりさんはナイスアイデアとでもいうように顔を上げた。
「じゃあ、うちで遊ぼうよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます