あおい

「何もかも滅茶苦茶にしたい気分さ、いつも」僕はあおいに言った。あおいは頑張って坂道を自転車でこいでいる。その横を僕は早歩きで進んでいる。日常会話に花が咲く。いい日だ。何も考えなくていい。海は静かで風は吹いていない。昔の、僕が生まれるずっと前の映画のワンシーンを演じているようだ。それくらい景色は美しいし、僕はこの田舎暮らしを満喫している。ビーチには観光客が大勢いる。今は夏だ。

「君のそれは口癖?」

 あおいが質問する。あおいには短所がいくつもあるが、僕はそれをあまり気にしていない。だから友達でいられるのだ。

「自分じゃどうにもできないことってあるだろう。感情をコントロールできなくなるときも。その場しのぎでいいんだよ。過去は振り返らない。そうだろ?でも、やっぱり何もかも滅茶苦茶にしたい気分なんだよ」

 この感情は誰にも理解されなくていい。でも、あおいにはその数ミリのニュアンスをつかんでくれてほしい。なんだってあおいに相談してきた。時には大事な決断もあおいの意見を参考にした。

 道は僕らの先に続いており、少し斜めに曲がった所からは下り坂になっていた。よくある光景だが、先日自転車がからむ事故があったところでもあり、あおいは自転車から降りて僕としばらく歩いた。

 「僕はこの世から歓迎されていない。だから歓迎しない。」

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羽ばたく @sugorock

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