第22話 百合なのか薔薇なのかノーマルなのか

 オレは小学生になった。

 ママの誕生日に喧嘩をしたから、もう1年以上、ママと会っていない。


 ランドセルは薄紫色で、さらにはリボンがついている。

 正直恥ずかしいけど、背負っていかない選択肢はない。


 入学前に、ママから贈られたものだから。


 それ以外にも筆記用具とか、ノート一式も渡された。

 しかもしっかりと全部に名前シールが貼られていた。

 本当はパパから、ということで渡されたのだけど、筆跡でモロバレだ。

 


(ここまでしてくれるのに、会ってくれないんだ)



 複雑な気持ちを抱えながら、入学式へと向かう。

 ちなみにパパは寝ていて、出席しない。覚えてすらいないだろう。

 迷惑なだけだし、ちょうどいい。

 


(翔太はどうしているのかな)



 1年先の小学校へと進学していって、そこから会っていない。

 ガールズバーにも行っていないし、完全に関係が切れてしまっている。



(イジメられてないといいなぁ)



 一見するとかなり強気な性格だけど、アイツは押しにかなり弱い。

 そのせいで女装させられていたし。

 最悪イジメられていたとしても、オレがなんとかしてやろう。


 こう見えても、イジメ対策は心得ているからな。 


 そんなことを考えているうちに、入学式はつつがなく終わった。

 周囲の子供たちは親に連れられて帰っていく。


 オレはその中、一人でトボトボ帰ろうと踏み出した。


 その時、一瞬視線を感じた。

 慌てて振り向いたけど、誰もいない。

 


(もしかして、ママ?)



 期待してしまったけど、もう視線は感じない。

 気のせいだったのだろうか。


 しばらく立ったまま呆けていると、肩を叩かれた。



「ねえ、アナタ、純玲って子? テレビに出てる」

「そうだけど」



 突然声を掛けてきたのは、かなりかわいい少女だった。

 だけどキツめな雰囲気があって、少し九条に似ているかもしれない。



「アンタ、気をつけなさいよ」

「なにに?」

「知らないの? 2年生のボスに目をつけられてるよ」

「え?」



(そんな恨みを買ったおぼえ……あるわ)



 幼稚園でかなりヤンチャをしていた時期がある。

 自分が人気者なのをいいことに、一時期逆ハーレムを作って遊んでいたのだ。


 もしそれが原因だとしたら、候補が多すぎる。


 今はとにかく情報を集めよう。そうしないと、対策も立てられない。



「どんな人なの?」

「よくわかんないけど、かなりの美人さん」

「女の子?」

「あれが男の子だったら、アタシはチンコを生やすわ」

「ナニソレ」



 オレがクスクス笑うと、彼女は少し頬を緩めた。



「冗談はさておき。気を付けてね。上級生になんか負けないでね」

「なんでそんなによくしてくれるの?」

「ファンだからに決まってるでしょ」

「あ……うん」



(面と向かってファンって言われたの、初めてだ)



 その日は少し嬉しい気分のまま、家に帰ることができた。



 その翌日、早速例の人物とかち合うことになる。

 校庭に人だかりができていたのを見て、興味本位で覗いたら、その中心にいたのだ。


 中性的でとてもかわいらしい少女が。


 でも、その顔にはすごく見覚えがあった。



「あ、純玲っ! いたっ!!!!」

「うわ、翔太!?」



 翔太は突然オレに抱き着いてきて、泣き始めてしまった。



「ずっとどこに行ってたんだよおぉぉぉ」

「ずっと、って一年だけじゃん」

「一年も、だろっ!」



 小学生にとっての一年は、かなり長かったのだろう。

 それから、周囲の人間を散らせて、翔太を落ち着かせた。



「なあ、今まで何してたんだ?」

「パパと一緒にいた」

「パパかぁ。純玲にもいるよなぁ、そりゃあ」



 もしかしたら、翔太のパパはもう他界しているか、一度も会ったことがないのだろう。


 ガールズバーの店員に手を出す男に、ロクな人間がいるはずはないし。

 ……あ、前世のオレにぶっ刺さってるな。



「それで、お前がなんで2年生のボスになっているんだ?」

「ボス……というか、女装したら周りに人が増えただけ、というか……」



 つまり、女装した翔太の魅力にあてられて、みんな付き従っているのだろう。

 おそるべし。女装ショタ。 



「なあ、なにかあったら相談しろよ。力になれるから」

「相談かぁ」

「オレさまじゃあできないことはあるかもしれないけど、みんなに頼めば大抵のことはできるからな」

「成長したなぁ」



 出会った当初は「うんちー!」と叫ぶクソガキだったのに、今は少し頼りになる。

 子供の成長はすごい。



「バカにしてるのか?」

「喜んでるの」

「……そっか」



 翔太は照れたように、ポリポリと頬をかいた。

 その姿を見た瞬間、彼が周囲を魅了する理由が、少しわかった気がした。

 まあ、オレとオレのママの方がかわいいけど。



「なあ、写真撮っていいか? 再会の記念」

「あ、うん。いいよ」



 翔太は早速、キッズケータイでツーショット写真を撮った。



「どうだ? 中々うまく撮れてるだろ?」



 その写真を見た瞬間、思わず顔をしかめてしまう。



(なんだ、この……なんだ?)



 オレと翔太が並んでいるけど、事情を知っている人にとっては情報量がすさまじい。


 見た目は女の子同士。

 精神的には男の子同士。

 生物学的には異性同士だ。



「うん、よく撮れてる」

「だろだろっ! 大事にするからな」

「じゃあ、オレのケータイに送って」

「お、いいなそれ。待ち受けにしてくれよっ!」

「……それはやだ」

「なんでだよ!?」



 オレのケータイの待ち受けはママと決まっているのだ。


 次の瞬間、寒気がした。

 とっさに振り向くと、物陰からこちらを伺う者たちがいた。



「翔太様とあんなに仲良く……誰よあの売女ばいたぁ!」

「ああ、翔太きゅんかわいいなぁ」

「ボクの方が先に好きだったのに……」



 オレはかなり嫉妬されているみたいだ。

 それにしても、すごい人気だ。性癖捻じ曲げすぎだろ。

 ちなみに、中年男性の教師が混ざっていたけど、気にしないでおこう。



「全く。純玲は相変わらずそっけないなぁ」

「そもそもそんなに仲よくなかっただろ、オレたち」

「な――っ!」



 オレの言葉に翔太はショックを受けて、顔を赤くしながら叫ぶ。



「オレさまは忘れてないからなっ、お前がオレさまのファーストキスを奪ったの!!」



 その瞬間、空気が凍り付いた。

 物陰から悲鳴が聞こえて、大惨事だ。

 当の翔太本人は「ハチでもいたのか?」と呑気なことを言っているのが腹立たしい。



(ああ、終わったかもな。オレの小学校生活)



 まあ、身から出た錆、と言ったらそれまでなんだけど。





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