第11話 前世のオレ、どーなった?
オレは、我慢の限界だった。
幼稚園に入学してから半年近くが過ぎた。
年末が近づいてきて、大きなイベントが迫っている。
お遊戯会。
内容は有名な絵本の劇で、主役に抜擢されたけど、あまり難しくはない。
ただ集団行動をしていると、異様に疲れるのだ。
周りに合わせて、幼くならないといけないから。
(すごく、メンドクサイ)
こんなことを続けていると、どんどん幼い女の子に染まっていく気がする。
それが非常にストレスだった。
できる限り我慢してきたけど、もう限界だ。
(少しぐらい、リフレッシュしなくちゃ!)
そうして、オレは幼稚園から抜け出した。
先生たちには申し訳ないけど、帰りの時間までに戻ってくれば問題ないだろう。
一応『ちょっと外で遊んできます。ちゃんと戻ってきます』と置き手紙も残したし、大丈夫だろう。
オレは街中を散策し始めた。
「おおー。変わってないなぁ」
この辺りは前世でも知っている土地だから、道に迷うことはない。
どこにでもあるような、普通の住宅街。
田舎というほど田舎でもなく、ある程度の店は揃っているし、田んぼや畑はあまりない。
そんな土地だ。
最初は懐かしさで感動した。
だけど、あまりにも代り映えしなかったから、すぐに飽きてしまった。
(お金もないし、やることがないなぁ)
お金がないと、ゲーセンやコンビニに行っても意味がない。
どうやって時間をつぶそうか。
ヒントを求めて、周囲を見渡す。
すると、今いる場所から、前世で住んでいたアパートに近いことに気付いた。
(折角だから、見に行ってみるか)
ちょっと気になって、前世の
まずは住んでいたボロアパートだ。
トコトコトコ、と。
歩いていくと、すぐにたどり着いた。
いかにも安そうなアパートで、階段や手すりもサビだらけだ。
ふと、思ってしまう。
(オレ、前世のとき、ここで何をやってたんだっけ)
仕事に疲れて、寝るかマスを掻いていた記憶しかない。
部屋はあまりに汚すぎて、徳美を部屋に招けなかった。
まさに世の中の『ダメな独身男性』を、そのまま具現化したような生活をしていた。
それ以上見ていたくなくて、
次に向かったのは、育ての親の家だ。
普通の、ありふれた一軒家。そこに異物のように迷い込んだのが、早くに両親を事故で亡くしてしまった、前世のオレだった。
今は誰も家の中にいないのか、とても静かだ。
まあ、あまりいい関係ではなかったし、特に興味もない。
次に、小学校や中学校を見て回った。
どこもかしこも、変わっていない。
まあ、イジメられた記憶ばっかりだから、愛着はない。
今世のオレも成長したら、前世と同じ学校に通う可能性が高い。
そう考えると、少し嫌な気分だ。
勤めていたブラック企業がどうなったかを見に行きたかったけど、電車で行かないといけない。
さすがに今回はパスだ。
こう振り返ると、しみじみと思うことがある。
(なんか、前世って、楽しい思い出があまりなかったなぁ)
それに比べて、今のオレは幸せに満ちている。
かわいく生まれて、優しいママに育てられている。
本当に恵まれている。
ママの寿命が残り少ないことを除いて。
(少しでも、ママに楽をさせてあげたいなぁ)
でも、その方法がわからない。
(オレ、バカだからなぁ)
自分の正体を隠しているのだから、相談できる相手もいない。
もう正体については、墓まで持っていくつもりだ。
きっと、ママの負担になるだけだから。
そんなこんなで、ママに楽をさせるのは、半分諦めている。
子供の体ではお金を稼ぐことも、家事を手伝うことも難しい。
(本当、ダメだなぁ)
自嘲しながら歩いていると――。
道路に、エナドリが落ちていたのだ。
しかも、一瞬で生産中止になってしまった、激レアフレーバーだ。
(誰もいないよな!?)
オレはチーズを盗むネズミのような素早さで、エナドリを抱きしめた。
開いていない。
間違いなく新品だ。
今すぐ飲むか!?
いや、外に置かれていたせいで
この状態では、十分にエナドリを楽しむことはできない。
なんとかキンキンに冷やしたい。
でも、幼稚園を逃げ出している今、家に帰って冷蔵庫は使えない。
……そうだ。川に行こう。
川にしばらく浸けておけば、キンキンに冷えるはずだ。
冷やしている間、少しトレーニングでもして、体を疲れさせておこう。
そうすれば、最高のエナドリを味わうことができる。
こういう時ばかり頭が回るな! オレの頭は最高だぜ!
作戦が完璧すぎて、ついつい「くははは」と高笑いをしてしまう。
次の瞬間、違和感を覚えた。
(ん?)
少し音が聞こえて振り向くと、ゆっくりと車が近づいてきていた。
かなりゆっくりな走行速度だ。
まるで、忍び足で獲物に近づく猛獣のようにも見える。
車はかなり大きい。バンだろうか。
えっと、この車種はなんていうんだっけ。
ハイ……なんとかだった
少し怪しげに見ていると――。
ガチャ、と。
車のドアが開くと同時に、大人の手が伸びてきた。
間違いなく、オレのことを狙っている。
瞬時に逃げようと、走り出す。
だけど間に合わずに、腕を掴まれてしまった。
そのまま大人の圧倒的な力で、なすすべなく車内に引きずり込まれてしまう。
(おー。これが誘拐かー。かわいいって大変だなー)
オレは他人事のような感想を抱きながら、口にガムテープを貼られたのだった。
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