第7話 公園デビューがメンツが大事 後編
公園には、すでに多くの親子がいた。
子供の年齢は大体1~3歳ぐらいで、幼稚園に入る前だろうか。
みんな自由気ままに遊びまわっている。
小さい体を目いっぱいに動かしいて、小動物みたいでかわいらしい。
見ているだけでも、ほのぼのした気分にしてくれる。
「うんち――――――――――!!!」
そんな中、下品な言葉を叫んでいる少年がいた。
遠目だけど、オレよりは一回り大きい。
おそらく年齢は2歳ぐらいだろうか。
大人の時は1歳の違いなんて、ほとんど気にならなかったけど、子供となると本当に変わってくる。
たった2歳の子供でも、今のオレの倍の年数を生きている。
精神面はともかく、体格差となると相当なものだ。
(ケガしてママに心配をかけたくないし、できるだけ避けよう)
オレはまず、砂場に向かった。
比較的空いていたし、あまり疲れないと思ったからだ。
どうせすぐに飽きるだろう。
そう思っていたのだけど、これが予想以上に楽しんでしまった。
なぜだか山を作るだけでも、楽しさを感じてしまう。センスが幼児の体に引っ張られているのかもしれない。
気づいたころには、一時間が経っていた。
ママは近くのベンチに座って、こちらをニコニコと見つめていた。
砂場に夢中になっている姿を、ずっと見られていたのだろうか。
恥ずかしくて、カッと顔が熱くなってしまう。
「ちゅかれた」
プランコに座ったまま、ママから渡された水筒を飲む。
薄めの麦茶が、乾いた体に染みわたる。
「ぷはー」
あまりものうまさに、思わず声を出してしまった。
すると、ママのクスクス笑う声が聞こえた。
「なんか、スミレがおっさん臭い」
(しまった。前世がにじみ出てしまった)
よくよく考えれば、麦茶もビールも、原料は大麦だ。
実質同じと言ってもいいだろう。
だからおっさん臭くなっても仕方ない。
(オレは幼い女の子 オレは幼い女の子 オレは幼い女の子)
「あ、徳美ちゃん!?」
「え、うそ!? 影山先輩ですか!?」
相手はガールズバーの先輩みたいだ。
ママと仲が良くて、本当の姉妹のように接していたのを覚えている。
「いやー。偶然ですね」
「ホントホント。徳美ちゃんも元気そうでよかったー」
ママは一瞬だけ間を置いた後、少し声を大きくした。
「当たり前じゃないですか。元気満点ですよっ!」
「そうよね。徳美ちゃんが元気じゃないの、想像できないもの」
「えー。そんな風に見てるんですか?」
(いやー。偶然の再会っていいものだなぁ)
嬉しそうなママを見て、オレはほのぼのとしていたのだけど――。
「じゃま!」
大きい声が聞こえたと同時に、ドン、と背中を押された。
予想外の出来事に、オレは顔から転んでしまう。
「こら! 翔太!!! 何をしてるのっ!!!!」
どうやら、犯人ママの先輩が連れてきた息子らしい。
睨むように、その顔を拝むと「うんちー」と叫んでいた少年だった。
翔太ママはオレを抱き上げると、服についた土を落としてくれた。
「うちの翔太がごめんね。大丈夫?」
「おっけー」
翔太ママは、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
だからできる限りの笑顔で返した。
「いい子ねー。翔太にも見習ってほしいわ」
「泣かないなんて、えらいわよ。スミレ」
転んで泣かなかっただけなのに、メチャクチャに褒められている。
これが大人だったら、転んだだけでも失笑されてしまう。
子供時代、サイコーだ。
オレは勝ち誇るように、翔太の顔を見た。
「ふん」
ぷいっ、とそっぽを向いてきた。
その態度が『一切謝らない平社員先輩』に重なって見えて、腹が立つ。
(こいつ、舐めてやがるな)
こちとら伊達に28年+1年を生きていない。
舐められるわけにはいかない。
それに、子供同士の時は、最初にマウントを取った方が主導権を握り続けられる。
ファーストコンタクトで、しっかりわからせてやる。
ちょうど、ママたちは雑談に戻っている。
「ざーこ」
「あ?」
「よわよわ」
「オレさまが?」
「くっさーい」
オレはできる限り、嫌みっぽく言ってやった。
これなら言葉の意味が分からなくても、バカにされているのはわかるだろう。
すると、翔太の顔がみるみる赤くなっていき、マシンガンのように悪口を吐いてくる。
もちろん、幼稚な煽りはオレには通じない。
「ばか!」「あほ!」「うんち!」
「ブス!!!!」
ブスと言われた瞬間、カチンときた。
今のオレはママから産まれた、かわいいかわいい娘だ。
ママにとてもよく似ている。
つまり、オレに「ブス」というのは、ママに「ブス」というのと同義だ。
それだけは、絶対に許せない。
「まぬけ!」
「はげ!」
翔太は負けじと応戦してきた。
「おたんこなす!」
「うんこ!」
「クソガキ!」
「あほ!」
「ひらしゃいん!」
言い合いはどんどん激しさを増して、声量がどんどん上がっていく。
それに気づいたママたちによって、止められた。
「もう帰りましょう」
ママがとても困った顔をしていたから、オレは素直に従った。
ちなみに帰り道で、ちゃんと自販機でジュースは買ってもらえた。
エナドリを何度も要求したけど「まだはやい」と言われて、買ってもらえなかった。
炭酸もダメらしい。
ブドウジュースはちょっとしょっぱかった。
そんなオレの不満を知らないママは、家に着くと、少し楽しそうに口を開く。
「いやー。スミレに友達ができて嬉しいな」
翔太のことだろう。
オレは「ともだち、ちがう!」と全力で否定した。
「でも、ママは仲良くなれると思うよ?」
「やだけど!」
「こういう言葉があるのよ? 喧嘩するほど仲がいい」
自然と、オレの顔が歪んでいく。
その顔がかなりブサイクだったのか、ママは「ぶふっ!」と噴き出した。
でもそんなことが気にならないぐらい、オレにはショックだった。
(喧嘩は同じレベルでしか起きない、とも言うよなぁ)
そう考えると、さっきまでの自分が恥ずかしくなってくる。
28歳+1歳を生きてきても、ガキと同レベル。
……とりあえず、ママのおっぱいに埋もれよう。あ、ブラ忘れてる。
(まあでも、さすがに出会うことはないだろうし。さっさと忘れよう)
そうそう遊ぶ時間帯がぶつかることはないし、別の公園に出向けば会うことはないはずだ。
微妙な気分になりながら、オレの公園デビューは終わりを迎えたのだった。
――まさか忘れた頃に、再会することになるなんて。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
読んで頂き、ありがとうございます!
この後の翔太と純玲の関係が気になる人は
フォロー
☆評価
♡応援 をよろしくお願いします!
作者の創作意欲が ぐーーん↑↑↑ と上がります
また、誤字脱字があったらコメント頂けると助かりますm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます