第6話 公園デビューはメンツが大事 前編

 1歳の誕生日が終わって、1か月ほどが経った。

 6月だけど、少しずつ夏が近づいてきていて蒸し暑い。


 ママはあの日以来、元通りに過ごしている。

 トイレとバニースーツが好きで、重度の親バカで、いつもニコニコ笑顔を浮かべている。

 余命を宣告されたようには見えない。


 あの誕生日の出来事が〝夢〟だったのかと疑ったけど、ママが隠していた薬をキッチンで見つけてしまった。


 飲むだけでも大変なほどの量で、見ているだけで胸が締め付けられる。

 ママはいつも、隠れて飲んでいたのだろう。


 多分、かなり無茶させている。

 だけどオレは今、自分で歩くのが精いっぱいな赤ちゃんだ。

 かわいさと愛くるしさぐらいしか取り柄がない。


 今はとにかく、早く成長することに集中するしかない。

 あとは、できる限り、頭がよくなりそうな動画を見るようにしている。

 英語のアニメ映画とかだ。……いつも途中で寝ちゃうけど。

 

 

「今日ははじめての公園に行かない?」



 朝。

 カーテンを開けるや否や、ママが言い始めた。

 窓越しに見える空は晴天で、少し日差しが強いように見える。



「こうえん?」

「そう。公園。スミレと同じぐらいの子供もいっぱいいるよ~~」



 ママのにこやかな笑顔を向けてくるのに対して、オレの眉間には皺が寄っていく。 



(正直、小さい子供と遊べる気がしない)



 こちとら中身は元28歳ブラック企業勤めの、立派なオッサンだ。

 どうあがいても気が合うわけがない。



「いやなの? どうして? 友達もいっぱい作れるよ」

「ともだち、いらない」



 これは前世から学んだ教訓なのだけど、小さい頃から友達を作る必要はない。

 大人になっても関係が続くような友人は、ほとんどが高校生以上で出会った人たちだ。


 社交性を養うのにはいいかもしれないけど、転生したオレには必要がない。


 それどころか、イジメとかカースト制度とか、面倒くさいことに巻き込まれてしまう可能性がある。


 あと8年しかないのだから、ママと一緒にいるのが一番大事だ。

 だから友達に時間も労力も使う余裕はない。


 今はとにかく、ママにヨシヨシされて、ばぶばぶしながら過ごしていたい。


 

(ん? 結論が、駄々をこねる赤ちゃんと変わらないぞ?)



 若干ショックを受けていると、ママが少し困ったような顔をしながら、語りかけてくる。



「公園に行ったら、自販機で好きなジュースを買ってあげるけど、どう?」

「じはんきっ!」



 オレは興奮気味に、ガバッと立ち上がった。


 最近の自販機には、高確率でエナジードリンクが置かれている。

 『好きなジュース』の中に含まれる可能性は高い。


 ようやく、エナドリを飲む機会がやってきたのだ。



「いく!!!」



 こうしてオレは、公園デビューをすることになった。



「ほら、ばんざーい」

「ばんざーい」



 まだ一人で着替えができないから、ママに着替えを手伝ってもらって、外に出る。


 道路を歩くと、まだ梅雨も明けていないのに、少し蒸し暑かった。

 背が小さくて、アスファルトの放射熱を浴びやすいせいか、体感気温が高い。


 しかも一歩一歩の距離が短いから、よちよち歩いても全く進まない。

 すぐに体力が尽きて、「はあはあ」と息を切らせてしまう。



「疲れたの? だっこする?」



 素直にコクリとうなずくと、ママはヒョイッと抱っこしてくれた。

 オレはまだまだ、ママに守られる存在だ。



(小さいって、想像以上に大変だ)


 

 一抹の不安を覚えながらも、オレはこっそりママのおっぱいを揉んだ。

 ……そこにあるんだし、落ち着くんだから仕方ないじゃん。


 そして公園に近づくと、サルのようにうるさい声が聞こえはじめた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――

読んで頂き、ありがとうございます!

今日はちょっと短かめですみません"(-""-)"


この主人公が公園でどんなことをやらかすのか、気になった人は

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