第30話



「どうでしたか、ルーベスト様」


 あっ、これはあれだ。

 獲物をとってきた猫みたいだ。褒めて欲しそうなので、褒めておくことにする。


「よくやった、サーシャ」


 そういうと、彼女はとても嬉しそうな表情を浮かべた。生えてはいない尻尾がふりふりと振られているように見えてしまった。


「はい、よくやれたと思います。この調子で、移動しながら倒せる魔物はルーベスト様の魔法で、足を止めて戦う必要があれば私が倒しますから」

「別に、そこも俺が相手してもいいんだぞ?」

「ルーベスト様のお手を煩わせるわけにはいきません」

「そんな気にしないぞ?」

「私が暇になるのです」


 そうだよな。ワンコもある程度、散歩させないとダメだもんな。

 サーシャもずっと馬の操縦ばかりだとストレスが溜まるんだろう。適度に、運動させてあげてよう……。



 俺たちが暮らしていたエクリーナの街から北へ向かったところにあるボルドライトの街へと到着した。

 フォータス家の者である書状を見せると、問題なく門を通過することはできた。


 この街も、エクリーナと同じくらいの規模の街だ。

 サーシャとともに向かった先は、この街の領主の屋敷だ。

 馬の手綱を握りながら、ゆっくりと街を歩いていたサーシャがこちらを見てきた。


「ルーベスト様は小さい頃にお会いしたことがあるんですよね?」

「一応、な」


 それからは一度も会っていないので、知り合いまでは言えない関係だ。


 ……まあ、ゲームにも出ていたキャラクターなので知らないことはない。そのくらい。

 とはいえ、ゲーム登場時とは年齢も大きく違うため、どんな姿なのかはあまり想像できない。


 屋敷に到着したところで、出迎えてくれた執事の方たちに馬を任せ、ともに屋敷へと入っていく。

 案内された先の部屋へと入ると、俺の父と同い年くらいの男性の視線がこちらを向いた。


 ……恐らくは、彼が当主だろう。その傍らには一人の女性もいる。

 車椅子に乗っている彼女は俺と同い年くらいに見える。すっと、こちらへ視線を向けてきた彼女は微笑を浮かべていた。


「おお、待っていたぞルーベスト」


 明るい調子で声をかけてきた男性。

 ……彼が、恐らくゴルシュさんだろう。父から聞いていた通りの特徴をしている。


「お久しぶりです、ゴルシュさん。自分のわがままな旅の宿として受け入れてくれて、ありがとうございます」

「いやいや、そうかしこまらなくてもいい。カイからの頼みだったからな」


 ゴルシュさんに礼をすると、彼は嬉しそうに微笑む。

 彼の方へと近づき、軽くハグをしてスキンシップをしてから、俺はアイテムボックスにしまってあった手紙を、ゴルシュさんに渡す。


 これは父さんが用意してくれたものだ。

 直接の受け渡しにしたのは、誰かに任せて万が一にも中身を見られたら大変なことになるからだ。


 ゴルシュさんたちも、俺がこの旅をなぜしているのかの詳細までは知らないというわけだ。


「こちらに、今回の自分の旅の目的についてが書かれた手紙になります」

「ほぉ? そうかそうか、ありがとう」


 ゴルシュさんに手紙を渡すと、彼はゆっくりとそれを開いて目を通し始める。

 そちらを見ていると、ちょいちょいと腰のあたりが突かれる。


 視線を向けると、車椅子に乗った女性――アイフィがこちらを上目遣いのような形で見てきて、微笑んだ。


「お久しぶりですわ、ルーベストさん」

「久しぶりだ」


 微笑むアイフィは、原作でも出てくるキャラクターだが、両足が使えないキャラだ。

 魔法の技術は高いのだが、両足が使えなくなってしまっているため、機動力などはもちろんない。


 俺がちらと足を見ていると、アイフィは少し悲しそうな様子を見せてから、すぐに笑った。


「この足……気になりますの?」

「え? あーと……」


 じろじろと見ていたのは失礼だよな。アイフィの足は魔族に奪われたことは、ゲーム知識として知っていた。

 色々と思うところはあるだろうし、あまり触れないほうがいいだろう。


「悪い。……美しい足だと思ってな」


 いや、誤魔化すにももうちょっとあるだろう。これだと俺がただのセクハラおじさんになってしまうのだが、アイフィは頬を少し赤らめて、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしている。


 おお、さすがルーベストくんの顔面。前世の俺なら間違いなく通報ものだが、やっぱイケメンって得だ。

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