第29話





 サーシャが操る馬にて、俺たちは北へと向かう。

 その道中、もちろん魔物も出現する。馬で振り切れるかどうか怪しい魔物たちは、仕留めてしまった方が安全だそうだ。

 なので、雷魔法を放ち、道中の魔物は蹴散らしながら進んでいく。

 ふとした疑問が浮かんだ。


「サーシャ、片腕で戦っていた時と感覚はどうだ?」

「この一ヶ月、ひたすらそちらで戦う訓練をしていましたので今では問題なく二刀流で戦えます」

「……二刀流、だったんだな」

「もともと、左は使えなかったのですが……隻腕時代のおかげで今では両腕で戦えます」


 全てが悪かったということでもないようだ。どんな経験からも得られるものは確実にあるということか。


「なるほどな」

「これで、私の攻撃力は二倍になったはずですよ」


 このゲームでは、別にそんなことはなかったと思うが。

 だが、俺の知らないこの世界の常識のようなものがあるのかもしれない。


「どういうことだ?」

「剣一本で戦うより、二本の剣を持った方が二回切れるんですから、強くないですか?」

「……その理論だと、使える剣が増えれば増えるほど、強くなるのか?」

「そうなると思います。もちろん、ちゃんと扱えなければダメですよ?」


 そんなところ気にはしてないって。

 ……とにかく、サーシャの考える常識はあまりアテにはならなそうだ。

 仲間選び、ミスったかもしれん。


 こちらに迫ってきていたウルフが、威嚇しながら追ってくる。

 馬も速いのだが、さすがにこのままだと追いつかれる。

 数は三体。

 俺が魔法を用意しようとしていると、サーシャが声をかけてきた。


「私の戦闘を、まだ見せていませんし、一度戦いましょうか?」

「……そうだな」


 このままだと、俺の魔法だけでボルドライトに到着しちゃいそうだしな。

 サーシャが馬を止め、俺たちはすぐに馬から降りる。

 こちらに迫っていたウルフが足をとめ、じっとこちらを睨んでくる。

 サーシャは両腰に差した剣を抜き、こちらへ微笑を向ける。


「私にお任せください」

「……いいのか?」

「はい。馬を見ていてください」


 だそうだ。この馬も屋敷で育てていたもので、戦闘などにはかなり慣れている。

 俺たちの様子を見ても、暇そうにその場でお座り状態で休んでいる。


 ……馬たちも結構鍛えているらしく、弱い魔物なら全然問題なく倒せるというのは聞いていたが、確かに余裕そうだな。


 俺はサーシャの様子を見ていると、女神様の声が聞こえた。


『あああ! いつの間にか旅に出ちゃってます!?』

『……とっくにな。そっちの仕事片付いたのか?』

『はい! 打ち合わせしてきました! 私の最近の功績が認められて、今度から、もう一つ世界の管理を任されることになったんですよぉ! もう順調に女神としてのキャリアを進んでますよぉ』


 嬉しそうに話しているが、それは俺のおかげもあるんだからな?

 何かちょっとくらいおまけ特典が欲しいものだが、まあ何か力が必要な時の交渉材料としてとっておこうか。


『とりあえず、見ていなかった部分は録画しておいたので、後で見るとして――』


 こいつ、録画までしてるのかい。

 もう完全に俺の人生を一つのエンタメとして楽しんでんじゃねぇか。

 誰のせいでこんなことになってると思ってんだ、まったく。

 いつものようにお菓子を食べ始めた彼女は、


『さ、サーシャさん……なんか、めっちゃ強くなってるんですけど』


 女神様がそう言った時、サーシャが地面を蹴り、一気にウルフへと迫った。

 ウルフは、まったく反応できず一体が切り裂かれた。


 遅れて別の二体が反応したが、それらをサーシャは両方の剣であっという間に仕留めた。

 その動きは、確かに以前訓練をつけてもらった時よりもかなりキレがあった。


『……確かにめっちゃ強いな』

『……ステータス、やっぱりこの世界の基準値よりも多いです。これなら、魔王討伐は無理でも、全然魔族相手なら一人で戦えちゃいますよぉ……もともと、四人で戦う設定なのに……。えーっと、この辺は世界の記録に残らないように設定しちゃって……と』


 何か、誤魔化し方を覚えたようで向こうで弄っているようだ。

 悪い女神様に一歩前進だな。ま、仕事のミスはいかにカバーできるかが大事だからな。

 結局、長く仕事をしているとミスの一つや二つなんてのは出てくる。そのミスで落ち込むのではなく、傷口を広げないようにするのが大事だ。


 人生長く見れば、そんなミスなんてのは、小さな問題なんだしな。深く考えない方が気が楽だ。


 戦闘を終えたサーシャは一息ついたあと、嬉しそうな顔とともにこちらへやってきた。

 目がとても輝いていて、無垢な子供のようだ。

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