第17話
ルーベストが、奇怪な行動をとっていると……屋敷の中で心配する声が上がっていた。
もちろん、オレの元にも報告があり、一度話をしたほうがいいのではないか、という意見も出てきていた。
確かに、最近は訓練を過度にやりすぎている気がするし、心配はあった。
しかし……オレの天才的な息子ならば、おかしくなる前に自分で気づくのではないかと思ってこっそりと訓練の様子を見にいったところ。
……頭を抱えることになった。
ルーベスト……何があったんだ。
走ったり、魔法を自分に打ったり、また走ったり……。
わけのわからない行動を連続で行っており、オレはどうすればいいのか分からなくなってしまった。
訓練をたまたま見にきていたリアナが、ルーベストのそんな様子を見て楽しそうに目を輝かせている。
そして、真似をする。
ルーベストのように走り出し、その後リアナは自分の胸に右手を当て、倒れる。
それが凄い楽しかったのか、天使のような笑顔を浮かべ、再び同じ動きを繰り返す。
超可愛い……。
もうずっと見ていたかったが、現実から目を背けている場合ではない。
今はルーベストのことだ。
我がフォータス家には、勇者様をお守りし、導くという使命がある。
……勇者様がいつ、この世界に生まれてくださるかは分からない。
それでも、過去にも何度かあったように、勇者様は必ず生まれるはずだ。
その時に、フォータス家が勇者様をお守りできるように、ルーベストにも家を引き継いでもらう必要がある。
ルーベストの行動……。
見ていても分からないため、もう直接聞くしかないだろう。
オレは少し緊張していたが、意を決してルーベストを書斎へと呼び出した。
「どうされたのですか?」
ルーベストは僅かに首を傾げる。
オレとは違い、ルーベストは頭もいい。そんな彼にどのように聞けばいいか……。
迷っていたが、直接聞くしかないだろう。
「……最近、屋敷内でお前を目撃する声が多くてな」
とはいえ、いきなり話題を切り出すというのも、不安があった。
もしかしたら、何か悩みがあるかもしれないしな。
だから、回りくどいとはいえ、世間話から始める。
「それは……まあ、屋敷に住んでますからね」
にこり、と苦笑気味にルーベストが答える。そうじゃない。
そうじゃないんだよ、息子よ。
沈黙がオレたちの場に流れる。
ルーベストは不思議そうにこちらを見てくる。
……やはり、こういった回りくどいやり方は苦手だ。
オレは一度大きく深呼吸をし、ルーベストをじっとみる。
「……単刀直入に聞こう。最近、魔法を自分に使っていることが多いが……何があったんだ?」
「それは……」
言いにくい、ことだろうか。
……やはり、もしかしたらそうなのかもしれない。
ルーベストは、オレの子どもだ。
遺伝、してしまったのかもしれない。
息子に、言いづらいことを言わせるわけにはいかない。
オレの口から、伝えたほうがいいだろう……。
「すまない。言いにくいことなら別にいいんだ。……その、父さんも気持ちはわかる、からな」
「…………はい?」
「……父さんも、異常性癖でな。マゾ……と呼ばれるものなんだ。魔法を自分にぶつけていたのは、そういう理由があるんだろう?」
「違います」
あれ? 息子からの視線がひどく冷たい。水魔法でもぶっかけられたような気持ちだ。
変なプレイに目覚めたのだとばかりに思っていたが、ルーベストは否定してきた。
……それは照れ隠しなのだろうか? そう思ったのだが、ルーベストは真剣な様子で口を開いた。
「……自分の魔法が、強力だということを聞きました。その魔法の威力がどのようなものか。人をあっさりと殺せてしまうほどの力であることは間違いないと思いますので、力加減の訓練を行っていました」
「……そういうこと、だったのか」
少し、悩んだようにしていたのは……話すべきかを迷っていたのかもしれない。
……ルーベストがそんな真剣に悩んでいるときに、オレはなんてことを考えていたのか。
妻の鞭に叩かれ、興奮している自分の姿を想像していたなんて……とてもではないが話せなかった。
ルーベストとリアナが、そうやって生まれてきたことなど、絶対に口にはできなかった。
オレは小さく息を吐いてから、真剣な表情を無理やり作って、問いかける。
「傷は大丈夫なのか?」
「回復魔法を使えるようになりましたので、問題ありません。実は、その練習も兼ねていたんです」
ああ、なるほど。回復魔法か。
確かに、それを試すにはダメージを受ける必要があるよな。
納得、納得……え!?
あっけらかんという息子に、オレは思わず立ち上がってしまう。
「な、なんだと!? 回復魔法が使えるのか!?」
回復魔法、といえば……使い手が非常に少ないことで有名だ。
その魔法が使えるだけで一生生活に困らないというほどの代物。
それを、ルーベストは使えるようになったと言ったのだ。
そんな、重要な情報をあっさりと口にしないでほしい。心臓が飛び出そうになるからだ。
「はい。使えるようになりましたよ」
「……まさか……いや、そうか。それは……嬉しいことだな」
わずかに疑いの気持ちはあったが、ルーベストの訓練している様子を思い出す。
……あれだけの魔法を受けたというのに、傷はまったく残っていない。
たしかに、回復魔法が使えなければ無理な芸当だ。
オレはにこりと微笑んだ。やはり、オレの息子はオレとは違って……天才だ。
……オレの性癖までも遺伝してしまったのかと思っていたが、どうやらそれはオレのはやとちりのようだ。
「……まあ、訓練については皆に話しておくが、無茶だけはしないようにな?」
「はい。分かっております。それでは、失礼しました」
すっとルーベストは頭を下げてから、部屋を去っていった。
……それにしても、回復魔法か。
願わくば、ルーベストの代に勇者様が生まれてくだされば、今度こそ、魔王たちを倒せるかもしれない。
そんなことを、少し考えていた。
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