第16話
レベル10くらいまでだったら、たぶんなんとか死ぬ気で戦いまくれば上げられると思うが、それはあまりにも効率が悪い。
……まあ、ゲームとしてやる分にはいいが、実際の体では行いたくはない。
だからこそ、別のやり方でレベル上げだ。
魔物を狩ってレベル上げをするなんて時代は、もう古い。
そう……【ファイナルクエスト】をプレイした人たちの多くは、仲間を殴り、回復させてレベル上げをしていた。
【ファイナルクエスト】では仲間をアイテムや魔法で回復した時に、経験値が入る。
入る量は治療したHPに応じて増加するのだが、通常であれば、そこまで意識するほどの経験値ではない。
だがまあ、【ファイナルクエスト】では最大HPに限界値はないが。それこそ1/100000000、みたいなキャラクターをアイテムで一気に回復させたら、えぐい量の経験値が手に入るわけだ。
なので、レベル1のキャラクターを手っ取り早く育成するなら、この手段が楽だ。
いつも通り、我が家の長閑な庭に来た俺は、早速女神様へと問いかける。
『今の、ルーベストさんのHPは1015になりますね』
『思っていたよりもあるな』
すでにこの段階で、【ドラゴニックファンタジー】の住民の最大HPを超えている。
『日々の生活でちょっとずつ成長していますからね』
『とりあえず、サンダーを自分に使ってHP削るから、どんくらい減ったか教えてくれ』
『分かりました』
……ちょっと、緊張する。
ゲームなんかでは、仲間に攻撃を当てるというのはわりと、そこそこやることがある。
ゲームによっては人数で経験値が割り算されてしまうので、誰かに経験値を集中させたいときなどに、自害させたりな。
何度かRTAの動画などを見たことはがあるが、与えたいキャラクターに経験値を与えるために必須スキルとも言えるテクニックだ。
……だから、仲間が仲間に攻撃する、なんていう敵から見たら恐ろしい絵面になってもプレイヤー目線からすればわりと普通だ。
ただ、それはあくまでゲームだから。
リアルの体で、自分に魔法を放つ、というのは分かっていてもちょっと怖い。
よくゲームのキャラクターたちは躊躇いもなくやってるな……。
いや、命令を出しているのは俺たちプレイヤーなんだけど。
本当は、内心悲鳴を上げながらも、命令に逆らえない体に苦悩とかしていたのかもしれない。
……いつまでもビビってはいられない。俺は自分に片手を向け、少しの迷いとともにサンダーを放った。
「うが!?」
思っていたよりも強い衝撃に弾かれる。
ごろごろと地面を転がり、体を起こす。
……痛い、が雷を受けたというわりには痛くない。
もっとこう、全身が痺れたりするのかと思ったが、そういうのはないようだ。
あくまで、雷属性、というだけで実際の雷とは違うのかもしれない。
『HPが725になりましたね』
『……もう一発いけそうだな』
『……だ、大丈夫ですか?』
魔法に、クリティカルはないからな。
多少乱数による振れ幅や、MPの込め方で上下するかもしれないが、もう一度自分にサンダーを放った。
『HPは458ですね』
それなら、そろそろ回復魔法だ。もっとギリギリまで削ってもいいが、さすがに怖い。
ていうか、HPが減ってきたからか、全身が鉛のように重たい。
足など、別に外傷があるわけではないのに、まるで大怪我でも負ったかのような重さがある。
俺はすぐに自分へヒールを放つと、全身にあった痛みがすっと引いた。
『あっ、体力満タンです! ついでに二レベルもあがりましたよ! てっててー!』
『歌わなくていいから』
といってるのに、女神様は歌っていやがった。
……まあ、歌うのはいい。だからってホログラムで現れて楽しそうにダンスまで披露しやがるんじゃねぇ!
とりあえず、これでダメージを受けての経験値回収は問題なくできることが分かったな。
ただ、服はボロボロになってしまった。
……今度から、この方法でレベル上げをする場合は、事前に上半身裸にしておいたほうが良さそうだ。
俺はさらにサンダーとヒールを連発していき、自分にダメージを与えていく。
……痛みへの耐性はもちろん、魔法防御の訓練にもなるな。
あとは、走り込みもここに合わせて行こうか。基礎訓練で、走り込みを行うとHPが強化できる。それらを組み合わせていけば、さらに効率よくなるだろう。
走り出し、サンダー打って吹っ飛ばされ、すぐに起き上がりヒールしながら走り出し、またサンダー。
短時間で心拍数を高める、ヒートトレーニングでもやっているような気分だ。
この連続を呼吸が続くまで行い、休憩を挟んで次のインターバルまでまた動き続ける。
……なんか、使用人たちが信じられないものでもみるかのような目を向けてきていたが、まあ別にいいだろう。
これが、最高率でレベル上げと基礎ステータスを上げる訓練だ。
周りの目なんか気にしてられん!
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