第15話
【ドラゴニックファンタジー】の序盤の魔物がくれる経験値は、だいたい1とか、2とかだ。レベル1から2に上がるまでに必要な経験値は、10くらい。
対して、【ファイナルクエスト】の序盤の魔物がくれる経験値は10とか20とか。次のレベルに必要な経験値は100とかだ。
あくまでレベル1から2に上がる時に必要な経験値なので、レベルが上がれば上がるほど、必要経験値はどんどん跳ね上がっていく。その倍率は、圧倒的に【ファイナルクエスト】の方が高い。
そして、【ファイナルクエスト】は後半馬鹿みたいな経験値をくれる魔物が出てくるし、馬鹿みたいに経験値を必要になっていく。
……完全に、失念していた。向こうの世界基準の魔法が使えて、俺ツエー、とかちょっといい気分になっていたが……成長もこんだけ遅いとなると、これはわりと深刻な問題になる。
ていうか、このままだとゲームクリアまではさすがに厳しいぞ……。
父たちとはその後もゴブリン狩りを行っていたが、結局この低難易度の迷宮で、俺はレベルアップすることなく、今日の狩りを終えて無事屋敷へと帰還してしまった。
父は俺の将来有望な力に偉く満足しているようだが、俺としては大きな問題が発生してしまったという状態だ。
今日は俺のデビュー戦を無事に終えたというわけで、屋敷全体でお祝いのパーティーが開かれていた。
屋敷の広間には、豪華な装飾が施され、輝くシャンデリアが天井から吊り下がっている。
テーブルには豪華な料理が並び、甘い香りが漂ってくる。周囲には使用人たちが忙しそうに動き回り、華やかな雰囲気が広がっていた。
だけど、俺の心は全然晴れない。目の前のご馳走を見ても、味を楽しむ余裕なんてない。状況だ。
「ルーベスト、今日は本当によくやったな!」
父が嬉しそうに俺の肩を叩き、笑顔で言う。沈んだままでは父を悲しませてしまうだろうし、俺は精一杯の笑顔を返した。
「ありがとうございます、父さん」
俺は笑顔を作りながら応えたが、内心は焦りでいっぱいだった。このままでは、レベルアップするまでに膨大な時間がかかる。魔王たちとの戦いに間に合うか……? いや、不可能に近い。
どうすればいい? もっと効率よく経験値を稼ぐ方法はないのか?
華やかな雰囲気の中で皆が楽しんでいるのに、俺だけが悩んでしまっていた。
「にぃに、迷宮行ってきて魔物たくさん倒してきたの?」
リアナが、服の裾をくいくいと引っ張って小首を傾げてくる。
可愛い……。前世の妹も可愛かったが、今世の妹も目に入れても痛くないほどに可愛いぜ……。
悩みが一瞬でどこかへと消えてしまった。
「ああ、行ってきたよ」
「いいなぁ……あたしも行きたいなぁ」
羨ましそうに頬を膨らませる。まあ、この子も父か母の力が遺伝していれば、それなりに戦えるはずだ。
ただまあ、あの過保護な父だ。俺のデビュー戦がこの年齢なんだし、リアナなんてもっと後になるかもしれない。
リアナと一緒のパーティーを楽しみつつ、俺は女神様と作戦会議を行う。
もちろん、必要経験値問題についてだ。
その時、女神様の声が頭に響いた。
『俺の経験値だけ少なくはできないのか? 設定変えるとかなんとか』
『……それは、できないですね。申し訳ありません』
『まじで? ちょっとくらい下げたりできないか?』
『で、できないです! ごめんなさいぃぃ!』
そこだけ、イレギュラーでできれば良かったのだが……まあ、いいか。
もしもできる、というのならさらにラッキーなことになるだけだったので、次の確認だ。
『……女神様は、俺のステータスとかも見えてるんだよな?』
『は、はい』
『それなら、今後。俺が訓練でHPが減ったら教えて欲しいって言ったら、教えてもらうことは可能か?』
『そ、それはダメですよ……っ!』
『んじゃあ、もう女神様の仕事は一切手伝わないってことで。それじゃ』
俺が寝ている時に展開に呼び出しても、全部ボイコットしてやろう。
『わ、分かりました! HPだけ! HPだけなら、教えますから手伝ってくださいぃぃ!』
最初からそういえばいいものを。
だが、これでひとまずちょっとだが問題は解決できた。
多少効率が下がるとはいえ、レベルアップに大きな支障はでないはずだ。
【ファイナルクエスト】でも、新しいキャラクターを手っ取り早くレベル上げするときに使う手段だからな。
用意するのは、ダメージをくらっている最大HPの多いキャラクターと回復アイテムか回復魔法。
『い、一体なにを企んでいるんですか?』
『まあ、それは後で試すから。今はリアナを愛でるので、静かにしててくれ』
『……ずるいです。私もリアナちゃんを愛でたいのに』
『リアナは俺の大事な妹だからな。お前にはやらん!』
『むぅぅ……ずるいです……前世の妹さんに報告してきますね』
『やめろ!』
うちの妹にこの状況を知られたら何をされるか分からん。
あいつ、普通にヤンデレみたいな感じだったしな……。
それでも俺はぎゅっとリアナを抱きかかえながら、次の作戦を練っていく。
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