第14話
これで問題はないかと確認しようと振り返ると、
「……」
皆が、あんぐりと驚いた様子で口を開いていた。
……ゴブリン相手なら、余裕で一撃だな。まあ、下級魔法であってもゴブリンくらいならギリギリ一発で倒せる程度ではあると思うが。
「こんな感じでいいですか?」
「……あ、ああ。凄いぞルーベスト!」
父は嬉しそうに俺の頭を撫でてくる。自慢げな父に、俺は苦笑を返しておいた。エディックは驚いたようにしつつも、拍手をしてくる。
「る、ルーベスト様……素晴らしい魔法です。まさか、この距離で正確にあて、一撃で仕留めるなんて……」
「ありがとうございます」
……まあ、ダメージだけで言えば、この世界の上級魔法だからな。あとは正確にどれだけの敵を射抜けるかが問題となってくる。
その辺りは、俺自身の腕を磨く必要がある。ゲームと違って、ターゲットを決めて終わり、ではないのが少し面倒だが、逆に言えばさまざまな使い方ができるわけでもある。
魔物を狙わずとも、その足元を破壊するとか……現実だからこその魔法の良い使い方を模索したいところだ。
ゴブリンを倒した後に、その周囲に遅れてゴブリンが出現してきた。さっきのゴブリンと一緒に出現する予定の魔物なのかもしれない。
「連続でやります」
俺は前に一歩でて、サンダーを一体ずつ放っていく。こちらへと接近していたゴブリンたちだが、全く抵抗することなく、倒れていく。
合計四体。MPはまだまだ余裕があり、問題なさそうだ。日々の訓練のたまものかもしれない。
俺がちらと背後を見ると、父や騎士たちは俺の活躍を手放しに喜んでくれたが、同じ魔法使いだからか、エディックだけは頬を引き攣らせていた。
「……じ、次元が……違いすぎますよ」
……エディックのその言葉はまさに俺の能力を的確に示しているな。
まあ、その次元の違う力に関しては、どこかの女神様に言ってほしいものだ。
俺は恐らく今も見ているであろう女神様にちくりと突き刺すような言葉を放つが、返ってくる声はない。居留守しているのか、聞こえないふりをしているのか。
天界をちょっと覗き見てみると、両耳を押さえていた。
おいこら。
「これだけゴブリンを倒したんだ。どうだ!? レベルアップしたんじゃないか!? 何か、頭の中に神の声はきこえなかったか?」
父が興奮した様子で問いかけt家売る。そういえば、そんなこともあったな。
「……」
普通なら、まだレベル1なんだしゴブリンを倒せばレベルアップもするんだろう。ただ、俺にはその目安となる声が聞こえない。女神様に無理してでも設定を変えてもらうべきだったかもしれない。
「ちょっと、興奮していたので聞き漏らしてしまったかもしれません」
一応、初めての実戦なんだし、子どもっぽいところも見せておいたほうがいいだろう。俺が照れるように頭をかいてみると、父は嬉しそうに背中を叩いていた。
「はは、そうか。次は聞き逃さないようにな」
上機嫌な父とともに歩きながら、俺は女神様に問いかける。
『今いるか?』
『はい。ずっと見ながら書類作業してますので』
『……だからミスするんじゃないか?』
『あとでルーベストさんがチェックしますから大丈夫ですよー』
大丈夫じゃねぇから。
当たり前のように俺に仕事を押し付けてくる女神様にため息を吐く。
俺が眠りについたところで、天界へと呼びだしては作業の手伝いをさせてくるのだ。職権乱用にもほどがあるだろう。
ただまあ、これは取引だ。こっちも彼女の頼みを聞くのだから、向こうにも俺のことを教えてもらおう。
『まあ、手伝ってやるから俺の今のレベルを教えてくれ。さっき、ゴブリン倒したからレベルアップしてるんじゃないか?』
『いえ? ……まだレベル1、ですよ』
『……なんだと?』
俺は思わず問いかけてしまう。天界を見てみると、女神様はダラダラと冷や汗をかいていて、俺から視線をそらしていた。
明らかに普段とは違う様子だ。
そういえば、さっきの声も、どこかいつもとは違う様子だったな? ……こういうときは何かやらかしている。
『おい、何に気づいたんだ?』
『……き、気づくって……いやですねぇ、私がまた何かしちゃったと思ってるんじゃないですか? 今回は、何もしてないですよ!』
今回は何もしていない。嘘が苦手な女神様が堂々と言い切った。そこに、女神様からの嘘は感じられない。
彼女は嘘を吐くのが苦手なので、ということは、今回は何もしてないのだろう。
つまり、前にした何かが関係しているってわけだ。……推理していったところ、一つの問題に気づき、俺も冷や汗が出てきてしまいそうになった。
『普通に考えればそうだったのかもしれないが……俺のレベルアップに必要な経験値も、向こうの世界が基準……か?』
『も、申し訳ありませんでした!』
その謝罪が、回答だった。俺は父たちと同行してゴブリンを狩りながら、絶望するしかなかった。
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