第13話

 ゴブリンが少し近づいてきた時だった。その周囲の地面が盛り上がるようにして、さらに数体のゴブリンが生み出された。

 ……なるほど。


 ゲームではフィールド上のシンボルモンスターにぶつかった後に、バトル画面へと移り、複数の魔物が出てきていた。

 それがごくごく自然なものだと思っていたが、こんな感じで出現していたのかもしれない。


 騎士たちが剣を構えると、ゴブリンたちも持っていた棍棒を構える。

 そして、睨み合うこと数秒。

 先に地面を蹴ったのは、ゴブリンだ。騎士たちは剣や盾を構え、それを迎え打つように動き出す。


 ゴブリンの雑な突進を、盾で弾き、剣で斬りつける。

 ゴブリンたちの足を奪うように攻撃を放ち、連携で囲むようにダメージを与えていく。


 ……さすがに、騎士たちがゴブリン相手に苦戦することはない。

 確実に弱らせていき、大きな隙を見つけたところへ剣を叩き落とした。


 日々の訓練のおかげなんだろう。

 徹底した無駄のない戦い方、ではあったが見ている側としては派手なスキルや魔法が使われることはなかったので、ちょっと退屈だ。


 ……まあ、迷宮はそれなりに長いからな。ゲームとかだと、プレイヤーはずっと走りっぱなしであったが、リアルだとそういうわけにもいかない。


 体力やMPを温存しながら先に進むのは、当然なんだろう。

 戦闘のことだけを考えれば良いゲームと、現実との違いだな。


 討伐されたゴブリンたちは血を出すこともなく、霧のように消滅していった。

 あとには、魔石だけがドロップしている。

 戦いを見ていた父が、ちらとこちらを見てくる。


「迷宮の魔物は、このように死体は残らない。もしも、魔物の素材が必要な場合は迷宮の外にいる野生の魔物を狩る必要があるんだ」

「はい。分かりました」


 その辺りは事前に学習していたが、父は改めて説明してきた。

 いずれは、このフォータス家を継ぎ、次の子どもに引き継いでいくために指導の見本という意味もあるのかもしれない。


「迷宮の魔物は魔石しか落とさない。魔石は様々な場所で使うから、必ず回収するようにな」

「分かりました」

「まあ、集めた魔石はきちんとギルドに渡し、魔王様へと納品しないといけないからな」

「もしも、隠していたとなればバレるものですか?」

「魔石は魔石のままでは使えないからな……加工したときに足がつくだろう」


 なら、俺が一人で集めて、一人で加工してしまう分には問題ないということだな。

 ちょうど、鍛冶魔法で魔石のみで作れる武器があることを思い出したので、あとで試してみよう。


 フィールドの魔物でないと素材はドロップしないので、素材を集めるのは結構大変なんだよな。

 そんなことをぼんやりと考えていると、また魔物を発見した。

 また、ゴブリンだ。まだこちらには気づいていないようで、父の視線がこちらへ向いた。


「ルーベスト。魔法を使って先制攻撃を仕掛けてくれないか?」


 確かに、この距離ならば魔法で攻撃するのが一番だろう。

 待ってました、とばかりに俺が頷くと、エディックが首を横に振る。


「……カイ様。魔法には射程がありますのでこれほど離れていると、当てるのは相当難しいはずです。仮に当たったとしても相当威力が抑えられてしまうと思いますので、もう少し近づいた方がいいかもしれません」


 エディックが俺の父にそういうと、父は少し迷っていた。


「こ、これ以上近づいてルーベストに何かあったらどうするんだ」

「……い、いえそこまで心配なさらなくても」


 ……この父、凄い心配性なのかもしれない。

 だから、結構お小遣いも多くもらっていて、ルーベストくんはそれで人間の奴隷を買ったのだろう。


 せっかくの遠距離攻撃ができるのが魔法の利点なのだから、わざわざそこを潰す必要はないだろう。

 なので、一度提案してみることにした。


「一度、ここから魔法を撃ってみてもいいですか? 射程とかの参考にしたいです」


 俺が父に問いかけると、父はちらとエディックを見る。俺の意見にも納得したようで、彼はゆっくりと頷いた。


「……確かに、そうですな。どのくらいの距離まで正確に当てられるか。それを覚えるというのも魔法使いにとっては必要です。やってみましょう」

「分かりました」


 射程があっても、確実に当てられるだけの精度と威力を鍛えたい。俺がじっとゴブリンを睨みつける。距離はまだある。こちらにはまだ気づいていないのか、あるいは一定距離まで近づかないと魔物たちは発見状態にならないのか。


 ……まあ、それがこの世界のルールだとしても、俺はこの世界の理の外にいるからな。


 MPを消費し、サンダーを放つ。あまり広くはない迷宮内に雷のバチバチという音が響く。

 俺の右手に集まった雷撃を放出するようにゴブリンへと向けた。


 魔法は、右手からまっすぐにゴブリンへと向かう。閃光が一瞬周囲を強く照らし、ゴブリンの体を射抜き、吹き飛ばした。サンダーが地面へとぶつかると、激しい音をあげ……そしてゴブリンを仕留めた。

 ゴブリンが消えると、辺りは再び静寂に包まれ、魔石のみのあかりだけが残った。

 無事、討伐完了だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る