第6話
女神様はどや顔で胸を張り、まるで自分が大手柄を立てたかのように自信満々だ。その姿が余計に腹立たしい。彼女の自信過剰な態度は、俺の苛立ちをさらに煽る。
それでも、怒ってばかりではいけないと思い、俺は努めてやけくそ気味に叫ぶ。
『気を遣ってくれたのは、ありがとな!』
「はい、頑張りました!」
『でも、どっちも、最悪なんだよ!』
『えええ!? なぜですか!?』
『まず俺! 俺は、主人公たちを騙して敵側の魔族に主人公の勇者を売り飛ばすんだよ! そんで、その後魔族たちに殺されんの! あげく、死体をゾンビのように復活させられて、生きる屍としておもちゃのように使われるんだよ!』
『え? ……あ、あれ? そ、そうなんでしたっけ? あっ、あははは……』
『そんでもってなぁ! この世界の主人公の周りってめっちゃ人死にまくるんだよ! 妹にそんな辛い立場を体験させたくはないんだよ……! あー、もう……!』
俺は頭をかきむしるしかない。
俺だけの問題であれば、もう自殺でもしてもう一度【ファイナルクエスト】の世界に転生すれば良かっただろう。あの世界でなら、何度でもやり直せる気がしていた。
だが、妹にまで自殺を強要できない。彼女の無垢な笑顔を思い浮かべるたび、心が痛む。
主人公は物語の都合上、なんだかんだいつも生き残るのだが、親しくなった同行者やゲストキャラクターたちは主人公を生き残らせるためにバンバン死んでいく。
魅力あるキャラとかもどんどん死んでいくため、初見でプレイする人には、「主人公以外は全員死ぬつもりでいろ」と教えるくらいだ。普通に長期でパーティーにいたヒロイン候補も死ぬからな、このゲーム。
『も、もうすでに世界の予定に組み込まれてしまっていて、そちらも修正はできないんですよね……わ、私仕事早いので』
働き者の無能が組織にとって一番の害である。なぜか今、そんな言葉を思い出してしまった。
『……この世界に勇者の力を持った者がいる、と予言されるのは確か俺が二十歳のとき、六年後だよな?』
正確には、俺が十四歳になってからそれなりに経っているので、もう六年もないんだけどな……?
『そ、そういった……特定の誰かが有利になるような情報を教えるわけには……』
出し渋ってきた女神様に、俺は頬を引きつらせながら切り札を出す。
『分かった。じゃあ、俺天界にクレーム入れるわ。担当の女神様があまりにもポンコツなので、どうにかしてくださいって』
『世界の歴史を見てみると、ルーベストさんが二十歳歳のときに、勇者が十歳になり能力の一部が覚醒し、勇者となり……魔王軍に発見され、あちこちを転々としながら生きていくことになるみたいですよ!』
クレームをチラつかせたら、即座に動いてくれたな。安堵の息を吐く間もなく、情報が流れ込む。
この世界の魔王たちは全体的に利口で、RPGにはあるまじき勇者が育ちきる前に殺す、という作戦をとっている。
お約束であるそれを守らない魔王たちの冷酷な計画は、まあ見事っちゃ見事だ。相手したくはないがな。
ただまあ、結局人間たちの希望である勇者は、あちこちで匿ってもらって何とか成長するまで逃げ切るのだが。
……俺が二十歳の時に、勇者は本格的に狙われだす、か。
なら、やることは簡単だな。
『世界の歴史をぶっ壊してやる……!』
『え?』
『勇者が十五歳になるまで……物語本編が開始する前に、物語をエンディングにしてやるって言ってんだよ!』
『……えええ?! い、いやいや! それはダメですよ! 世界がおかしくなっちゃいます!』
『うるせぇ! 妹に苦しい思いをさせるくらいなら、世界の一つや二つ、ぶっ壊したっていいだろ!』
女神様がごちゃごちゃと言っていたが、俺はそれを無視する。
今の俺は能力値だけは、【ファイナルクエスト】の設定を引き継いでいるわけで、これならば何とかなるだろうと思う。自信と不安が交錯する。
魔王は、勇者の力がないと負けバトルになってしまうのだが、【ファイナルクエスト】のキャラクターの能力ならどうにかなるかもしれない。いや、どうにかするんだ。妹のために、世界を救わないと。
【ドラゴニックファンタジー】世界の力だけでは、無謀だとしても……今なら、何とかなるはずだ。希望の光が見えた気がする。
『……女神様。さっきの言っていた、能力値に関して詳しく教えてくれないか?』
『そ、それは――』
『クレーム』
『……す、すべては教えられませんが、部分的には教えます。ほんと、これ以上は無理ですから……っ! 勘弁してください!』
『了解、それじゃあ――』
『あっ! す、すみません! そろそろ、通信制限が――』
ぶちっとホログラムで出現していた女神様が消えた。肝心なときに、使えない女神様だ……。
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