第5話





『……これ、周りには見えないのか?』


 映し出されたホログラムによる映像は、明らかにこの世界からは異質である。そんなものを周囲に見られたとなると、俺の立場も危うくなりそうだ。


『それは大丈夫ですが……な、なんの用でしょうか?』

『【ファイナルクエスト】の世界に今から転生することはできないのか?』


 何度も言っているが、この世界のストーリーは理不尽だ。


 一般モブだったら適当なこと言ってストーリーから離れてしまえばいいが、ルーベスト・フォータスでは多少なりとも関わることになるだろう。

 俺は別に勇者たちに狙われるような行動をとるつもりはないが、下手に巻き込まれて、命を危険に晒すようなことはしたくない。


『た、たぶん……無理だと思いますが……か、確認してみますね』


 女神様がパソコンの操作を始める。キーボードのカタカタという音が響いていく。

 だが、女神様の様子は明らかにおかしい。彼女の指は震え、その表情が次第に青ざめていく。ダラダラと冷や汗を流した彼女は、それから両手で頭を抱えて跳ねるように体を揺らして叫ぶ。


『……あああああああ! 間違っちゃってますぅぅぅ!』

『……なんだよ今度は!』

『能力値の部分だけ間違っちゃってましたぁぁぁ! いや、あってますぅぅぅ!』

『……どういうことだ? 分かるように説明してくれ』


 能力値って、なんだよ?

 俺が首を傾げていると、女神様はぐすぐすと涙をこぼしながら、説明を始める。


『お兄さんの……能力値だけ、【ファイナルクエスト】の世界のものになっちゃってるんです……! ど、どどどどどうしましょう!?』

『えーとつまり……俺だけ【ファイナルクエスト】のスキルとか魔法が使えるってことか?』

『そうなります……! ど、どうしましょう!?』


 それは、わりとエグいことになってるな。【ファイナルクエスト】と【ドラゴニックファンタジー】では、魔法とかの威力がまるで違う。【ファイナルクエスト】の下級魔法のダメージが、100とすると、【ドラゴニックファンタジー】は10くらいだ。つまりまあ、【ファイナルクエスト】のキャラがこの世界にいたら、たぶんそこらのモブでも無双状態になるというわけだ。


『……今から修正もできないのか?』

『で、ででででできませんよぉぉぉぉ! あああああ! また始末書書かないとぉぉぉ……』


 女神様は頭を抱え、絶望的な声を上げながら再び体を跳ねさせている。

 なんか色々と大変そうだな。というか、俺はどうすればいいんだろうか? もうここまで色々ミスってるなら死に直して、キャラデータ作り直したほうがいいんじゃないか、もう。


 一人だけバグキャラがいるような状況なんだろ? そんなのすぐに修正パッチをあてたほうがいいレベルだ。


『俺、もう一回死んだ方が早くないか?』

『そ、そうなんですけどぉ……妹さんの転生先の問題もありまして……』

『はあ、どういうことだ?』

『妹さん……お兄ちゃんと同じ世界で、お兄ちゃんと血のつながりがない状態で絶対お兄ちゃんを感知できるようにして、お兄ちゃんをいつでもどこでも会いに行けるように……と言っていまして……もう転生できるように設定済みで……そちらも修正不可能状態なんですよね』

『……転生って、つまりこの世界に、ってことか?』

『は、はい』


 ……ま、マジかよ。この世界に妹だけを残していくなんてことは、できない。ていうか、妹の転生希望条件がちょっと怖いんだけど。


『……妹はどんな立場で転生したんだ? 変な立場じゃないよな?』

『ふっふっふっ! そこはご心配なく! お兄さん言っていましたよね? 妹にはいい立場で転生できるように、って』

『ああ』

『だから、お兄さんはゲームでも出番のある貴族に転生させてあげて、妹さんは絶対に死なない……安全最強の主人公として生まれ変わるようにしたんです! ……どうですか!? 今回の私凄い気がきいてますよね!? 褒めて、褒めてください!』


 凄い……最低だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る