第7話
女神様との通信制限が解除される条件はよくわからない。月一とかではないようだ。
もしかして、料金未払いなんじゃないの?と疑うこともあったが、さすがにそれはないとのこと。
「バカにしないでください」と女神様がぷんぷんしていたが、これまでありえないミスをしていたのだ。疑われるようなことをしている女神様が悪い。
さて、ひとまずの目標は強くなること。気持ちを引き締め、心の中で決意を固めた。
勇者である妹が魔王軍に命を狙われるようになるまでに、なんとしても物語をクリアさせなければならない。妹の無事を守るため、俺はこの世界で戦う覚悟を決めた。
原作主人公が達成した魔族との共存した世界を作り上げれば、妹が狙われるということもなくなるはずだ。少なくとも、原作のような酷い環境での生活を送る必要はないと思う。希望の光が見えた気がした。
順調にいけば、なんとかなるだろう。世界の歴史を変えると何がおこるか分からない、と言われるがそんなもの知らん。俺の存在が既にイレギュラーだからだ。
もう俺という存在がいる時点で、イレギュラーは発生しているわけで、どこでどんな問題が発生するかなんて分からないだろう。
とりあえず、俺はまず原作のストーリーを大雑把に思い出していく。記憶の中にある断片を繋ぎ合わせながら、これからの計画を練った。
【ドラゴニックファンタジー】はかなり暗い世界観だ。内容としては、王道な魔王VS勇者。ただ、世界のすべてが魔王たちに支配されていて、人間たちは魔王とその手下である魔族たちの家畜として生かされているだけの存在だ。
魔王や魔族たちは人々の負の感情がエネルギーになるため、時々魔界から人間界にやってきては、人間たちに理不尽な行いをしていく。だから、人々はいつ襲われるかわからない恐怖が常に付きまとっていた。
……例えば、剣士を目指す少年の腕をもいだり、サッカーが好きな子の足をもいだり……とか。胸が締め付けられるような光景が、俺の脳裏に浮かんで消えない。
とにかく、胸糞悪い最悪な行為を行う奴らだ。もちろん、それらとは違って人間を対等に見ているのもいるし、実際ゲーム本編でもそういった優しい魔族の存在もいるからこそ、勇者は魔族との共存の道を選ぶようになる。
とにかく、全体的に暗いストーリーなので、俺はこの世界に転生するのが嫌だった。理不尽な運命に抗うのは大変だからだ。一般人だとしても、恐らくおちおち生活もできたものじゃないだろうしな。
そんな理不尽な魔族たちに絶望していた人間たちだが、それでも希望はあった。
それが、勇者の存在だ。勇者が生まれることは分かっていたため、人間たちはその勇者を待ち続けていた。
もちろん魔王たちは自分の命を守るため、勇者を殺すために躍起となり数多の命が奪われていく。
……そして、俺の父もまた、魔王によって殺される一人だ。それもまた、酷いものだ。
父が魔王によって殺されるのは俺が十五歳の誕生日を迎える時だ。魔王がフォータス家の屋敷へとやってきて、父と対面。そして、息子に絶望を与えるために、と父の四肢をもいでいく。
父は絶望していたが、息子に自分の意思を託すことに成功した、と思っていたのだが、そこでルーベストくんは父の目の前で魔王と仲良く肩を組み、これまでにやっていた奴隷の購入などの悪事を伝えていく。
それを見て、父は絶望の淵に陥り、完全に壊れ、息子が魔族側についたことに、母もまた精神崩壊となり、魔王にとって美味しい餌となるわけだ。
魔王軍に忠誠を誓ったルーベストの覇道はまだまだ終わらない。匿った勇者たちを魔王軍に引き渡すという、魔王軍からはファインプレーのようなことをやってのける。狡猾な計略、お見事さんという感じだ。
女神様は、何を見てゲームで活躍した貴族だと思っているのだろうか?
確かに中盤の出番は多かったが、だからといってそれは決して褒められるものではない。むしろ、全プレイヤーによって憎むべき敵として恨まれていた。
これでゲームで活躍した、と思っていたのなら俺とは感覚がズレている。女神様の無能さに呆れるばかりだ。
おまけに散々利用されたルーベストは、勇者たちに殺されかけて魔王様のところに逃げ込むのだが、あっけなく魔王によって殺される。そして、自我を残したまま、体だけが操られて動かされるおもちゃのゾンビとなり、勇者たちの前に立ちはだかるが、まあそんなに強くはなかった。
ルーベストくんの物語はこれでおしまいだが、勇者はそこから能力を覚醒させ、友好的な魔王たちと同盟を結ぶ……あるいは討伐し、最後の大魔王と戦い、世界を平和へと導くことに成功する。
とまあ、それが俺の原作での役目。そして、この世界自体が生きるのが大変だということにも繋がる。
……ここに至るまでに、かなりのキャラクターが死ぬわけで、それを妹に体験させたくはないので俺が原作開始前にクリアしておく必要があるということだ。
とりあえず、今日からやるべきことは自分の能力を鍛えていくことだ。
……もう、こうなってしまった以上は仕方ない。
気持ちを新たに、前を向くしかないな。
ステータス画面はないのだが、今の俺は【ファイナルクエスト】でいうレベル1の状態だ。
この時点でも俺はかなり戦えるはずだ。
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