第3話


「……はぁ! ……はぁ! ……ん!? スライムが……!? これが、あの誇り高きフォータス家の跡取りがやること……んっ……なのか!?」

「親父たちは知らないに決まってんだろ? あいつに知られたら、どうせ怒られるからなぁ!」


 さらに俺の体は勝手に動き、スライムを投げつける。スライムが動き、メイドの服をさらに溶かしていく。……いやいや! このままだとR18になっちまうって!


 ん? ていうか、今……フォータス家がどうたら、言っていなかったか? その名前、どこかで聞いたことがあるよな……? あ、あれ?


 フォータス家って、まさか――【ドラゴニックファンタジー】に出てくるあのフォータス家、ではないだろうか?


 主要キャラが死にまくる全体的に暗い作品である【ドラゴニックファンタジー】。転生先候補の一つだったが嫌だと思ったそのゲーム世界には、フォータス家というプレイヤーの誰もが嫌う悪役貴族がいた。


 ……先ほど、メイドは俺のことを跡取りがどうたら言っていたが、まさか……俺ってルーベスト・フォータスに転生したんじゃ、ないだろうな?


 【ドラゴニックファンタジー】では、勇者VS魔王という基本構造をしていて、すべての人類は魔王及びその配下である魔族たちと敵対して、好戦している。……のだが。このルーベストは最低最悪の男であり、魔王側の人間だ。勇者などの情報を魔族たちに引き渡すスパイのような奴だ。


 ……い、いやぁ。まさかな。


 いくら同じ会社のゲームとはいえ……まさか、転生先をミスったとかそんなこと、ないよなぁ女神様?


 俺は内心めちゃくちゃ焦っていた。よりによって、なぜこいつに転生しているんだよ! 俺はダメもとで、女神様に声をかけてみる。


『女神様! まだ声聞こえるか!? ていうか、返事しろ馬鹿!』

『ば、馬鹿って! 馬鹿ってなんですかぁ! まだ通信制限は受けてませんから、大丈夫ですよ! なんですか!?』


 そんな携帯回線じゃないんだから、とは思っていたが確認したいことがある。


『女神様! 失礼を承知で聞くが、この世界って同じ会社の【ドラゴニックファンタジー】の世界じゃないよな!?』

『そんなまさかぁー。私、この世界の設定とか全部見直して、間違ってたところとか全部修正しちゃったくらいの天才なんですからね? そんな私がいくら新人研修で最低評価を受けたアホ女神っていう二つ名を与えられたからって、馬鹿にしな……あああああ! 間違えてます! その世界、「ドラゴニックファンタジー」の世界になっちゃってますぅぅぅ!』

『……やっぱりそうかよバカ! クソ! アホ女神!』

『そ、その呼び方やめてくださいぃ!』

『これをアホって言わずに何をアホって言うんだよ! おまえら女神は一体何ならちゃんとできるんだよ!? 前の担当は人殺し、その後任もミスって、コントじゃねぇんだぞ!』

『……そ、それは……その……申し訳ありません……が、頑張っているんです……!』

『もっと頑張ってくれよ……! こっからどうするんだ……!?』


 よりによって、【ドラゴニックファンタジー】の世界に……おまけに、ルーベストなんかに転生させられるとは思ってもいなかった。


「ここから、どうすればいいんだよ……! あれ!?」


 俺がブチギレていると、なぜか体が自由に動くようになっていた。思わず口で叫んでしまうと、女神様がぽつりと声を漏らした。


『……た、魂の適応が完了したようですね。こ、ここからは自由な転生ライフを、お楽しみください』


 何そのマニュアル通りの言葉は? ここで言われてもただの煽りにしかならんぞ? ひとまず……鎖につけられたまま、こちらをきっと睨んでくるメイドと向かい合い、俺は唇を噛む。まずは、この状況をなんとかしなければならない。


「……えーと、すまん」

「…………は?」


 とりあえずは、謝罪から入る。ルーベストへの体の適応が終わったからか、ここまでの経緯が分かってきた。どうやらこのメイドはルーベストが魔族たちから購入してきた人間の奴隷らしい。


 現在十四歳にして、すでにルーベストは両親に内緒で魔族との繋がりを持っているようで、そのコネを利用して手にいれたようだ。だから、誰も知らないこの奴隷に、メイド服を着させ、ルーベストは専用奴隷として、いじめていた。


 今日でもうすでに何度かこのプレイは行っている。……だが、まだ、間に合う。ここから入れる保険があるはずだ。俺はゆっくりと彼女へと近づき、その手首足首につながられている鎖を外す。


「……何を、いきなりしているんですか」

「……そろそろ、大丈夫だと思ってな」

「……大丈夫、とは?」


 とてもとても、不審そうにこちらを見てくる。


「魔族たちも、もう監視はしていないようだ」


 ……まあ、これは真っ赤な嘘だ。そもそも、魔族たちは俺なんかのことを監視なんてしていない。しかし、俺の様子が変わったことに、メイド――メアも困惑した様子でいた。


 俺は近くに脱がれて放置されていた黒塗りの外套を手に取り、メアに渡す。屋敷からこの隠れ家に来るまでに着ていたものだ。メアはさらに困惑したようにこちらを見てくる。


「服をボロボロにして悪かったな」

「……いえ、もともと、あなたが無理やり着させてきたものですし」


 ……そうだったな。

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