第2話


 ……できれば、世界観的に落ちついたものがいい。それでいて、できる限り現代と変わらない生活環境がある世界だ。

 そうなったとき、すぐに思いついた作品が二つあった


 近代文明と魔法。その二つが両立している世界といえば、【ファイナルクエスト】だ。


 俺がかなりやりこんでいる【ファイナルクエスト】の世界なら、ストーリーもだいたい把握している。

 第一、あちらの世界では、死が身近にはない。

 戦闘でやられても、瀕死状態となり、蘇生魔法で回復させられるからな。


 似たような世界観で【ドラゴニックファンタジー】というのもあるが、あっちはストーリーが暗めだから却下だ。

 鬱展開もりもり、主人公を苦しめ、曇らせるのが大好きな制作陣によって作られたものだからな……。

 おまけに、死んだ場合は完全なる死となり、二度とゲーム本編には登場しない。

 そんな殺伐な世界はちょっと勘弁だ。


「確認だけど……転生する世界の難易度ってどんな感じになるんだ?」

「難易度というのは……どういうことでしょうか?」

「今、【ファイナルクエスト】と【ドラゴニックファンタジー】の二つの世界がぱっと思いついたんだけど、【ドラゴニックファンタジー】って、人が死なない超イージーモードっていうのがあるんだよ。その世界の難易度はどんなもんなのかなって思ってな」

「……調べてみますね。……該当する二つの世界がありましたが、どうやらどちらもあなたのいう世界のゲームで判断しますと、ノーマルで固定されていますね」


 となると、【ドラゴニックファンタジー】の世界は絶対嫌だな。

 ノーマルでは、死んだキャラクターは二度とパーティーに参加できない設定だ。イージーでは、一応戦闘不能状態となるが、一定時間経過で回復できるようになる設定だ。


 ……まあ、仮にイージーだとしても、勘弁したい世界だ。

 主人公周りで死人が出すぎなんだよな。主人公だって、めっちゃ大変な思いをして旅をしていく世界だしな。


 俺が主人公に転生しないとしても、のんびり生活できないだろう。

 ならば、決まりだ。


「それじゃあ、【ファイナルクエスト】の世界に転生させてもらえるか?」

「分かりました。準備しますね」


 女神様がそういうと、眼前にゲームのウィンドウ画面のようなものを展開する。

 作業中の女神様はとても真剣な表情をしている。……それにしても、落ち着いた美人さんだな。

 少し暇になってしまった俺は、気になっていたことを問いかける。


「これから、妹とも話をするのか?」

「はい。そうなりますね」


 作業をしながら、女神様はぽつりと返事をしてくれた。


「俺の方より、向こうのほうがいい条件、立場になるようにしてくれ……」


 もう次の人生くらいは苦労しなくても済むようにしてやりたいからな……。

 俺の両親は早くに亡くなってしまい、親戚の力を借りながら、なんとか俺と妹は生きてきた。

 次の人生くらい、例えば王族の娘としてわがまま放題、好き放題に生きたっていいくらいだろう。


「分かり、ました。妹さんの希望を聞きつつ、できる限りお兄さんの希望も叶えますね!」


 満面の笑顔を浮かべてくれた女神様は、本当に素晴らしい女神様だと思う。

 ……これから、彼女のおかげで俺たちのようなミスで死ぬ女神様も減ることだろう。


「分かった」

「それじゃあ、お、お元気で!」

「女神さまも、これから頑張ってくれな」

「はい! ありがとうございます!」


 女神様が何度も頭を下げてくると、自然と意識が遠のいていった。


 俺が【ファイナルクエスト】の世界を選んだ理由最大の理由――それはレベル上限のない世界だからだ。

 いくらでもレベルを上げられるので、それこそ実質無敵状態にまで強くなることが可能だ。


 ダメージの桁が数十桁になるようなくらいにまで成長できるのは当然で、ゲーム本編自体はレベル100もあればクリアできる難易度。

 なんなら、どのキャラクターもパーティーにスカウトでき、やろうと思えばそこら辺にいる老人でさえ、最強キャラクターにできる。


 ゲーム本編クリア後には、やりこみダンジョンというのがあり、多くのプレイヤーたちはここを目標にして遊んでいるが、別にそこまでやり込まなくても生きていける。


 事前にめっちゃ鍛えておけば何が起きても問題ない、と思ったからこの世界に転生しようと思ったのだ。


 早速目を覚まし、行動を開始しようとしたのだが、俺がいたのは……牢屋の中だった。



 いたのは、俺だけではない。俺ともう一人……服が部分的に破けている状態のメイドのような女性がいた。

 薄暗い部屋の中、部屋の天井に設置されていた魔石から僅かな光が漏れる。

 それで、繋がれた女性の鎖が鈍く光り、彼女の手足が縛りつけられていることが分かった。

 俺の手にはスライムのような不気味なものがあり、ぬるりとした感触が肌を這っている。


 メイドの服にもスライムが絡みついていて、なんだか扇情的な見た目をしている。

 彼女は恥ずかしそうに、そして悔しそうにしながらこちらを見ている。その瞳には怒りと恐怖が混じり合っていた。


 ……ん? これは、どういう状況だ。まだ体は自分の意思で動かない。その時だった。


「はっはっはっ! ほらほら! このスライムは感度もあげる素晴らしい効果を持っていてね! どんどん、体がオレを求めてくるだろう!?」


 俺の口が勝手に動き、落ち着いたイケメンボイスとともに手に持っていたスライムをメイドへと投げつけた。スライムがメイドに当たると、そのメイド服だけがわずかに溶けた。


 顕になるメイドの肌に、スライムが張り付くと、彼女は「んんん!?」と声をあげる。


 何が、どうなってんだ!? いきなりまったく想像していなかったえっちなイベントが発生していて、さらに体がまったく動かない状況。

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