第21話 WORK

『そいでぞな(それからなんだが)おまん(おまえ)にこのキャメ(カメラ)を授ける。撮りなんし(撮りなさい)。レポートを纏めるんじゃ。』と権田は言った。


その言葉を聴いて、『俺の仕事そんな地味でたまるかよ!俺はもっと闘いたいぜ!』と徳山は怒っている。今しがた褒めて置いて、なかなかにレポーターをさせられるのは不本意である。


『おんし(おまえ)にはまんだ(まだ)早い。』と権田は言ったきり、何も言わなかった。そのうち、また負傷者が出て、回復魔法を使いだした。


徳山は、痺れを切らして動き出し、地上戦や空中戦を繰り広げているそれらの戦いを画角に納めた。具体的な指示がないため、思うままにいままでフィクションでしか見たことのないその激戦を100枚ほど撮りながら、現場を走り回った。


ときどき、『もらったあ!』と見境なく敵が隙をついて徳山に攻撃を仕掛けてくるのが怖かった。相手は、邪魔な妨害する敵を殺し頑丈な自然を破壊すべく強化された能力で戦闘している猛者たちである。一撃で徳山は仕留められるのではないかと不安になった。


しかし、その不安に反して、徳山の特殊能力は機敏でかつ強力でもあった。彼の身体からは、鞭のようにしなる血管が集合して出来た尾のようなものが尻から生えていた。その尾が、彼の意思とは別に、敵の攻撃を防ぎ、さらには間合いも取ったのである。


徳山が相対した相手の攻撃は、両手両足がランス(槍)のようになった武器で、突的攻撃がメインとなる。彼は正面から攻め込まれたため、瞬時に身の危険を感じたが、尾が彼を防いだ。


徳山は、「なんだこれ!まるでKISEIJUじゃねえか!パクリになるぞ!?大丈夫か!?」とメタ的な意味不明なことを叫んだ。


「貴様やるな。お前の尾は、まるで鵺のようだ。」と相対した敵は言い、徳山の思考に種を植えつけて来た。徳山は、「ぬえ?なにそれ?っていうか!気になることを今言うな!気が散るだろうが!」と反論した。


ランスで殴打されそうになりながら、徳山はソレを尾で往なしつつ、カメラでその敵を撮影した。ふと、この写真や映像は、都市部の資料室で使われたりするのかなあと呑気なことを思った。それは、自らの意思より早く、自身の尾が自らを守るゆえに出来た余裕からである。


そのうち、致命傷は与えないが、敵の隙をついて、徳山は尾で敵のランスを巻き取り、遠くに放り投げた。


「貴様逃げるつもりかああ!」と言いながら、そいつは前方200mほどに飛んで行った。栄養の少ない土地で枯れた木々で隠れた目線の奥には、土砂の廃棄場があるのか、ソイツが落ちた位置には乾燥した土埃が立った。


「いったん引くぞ!形勢が危うい!」と敵のうちの誰かが叫んだ。かと思うと、戦場の中心から、ワームホールが球体に拡散し、敵の一味がそれに吸い込まれていった。対する我々は、思い思いの能力で、吸い込まれないように地面や根の深い木々につかまっていた。


「まんずまんずの収穫じゃいな。」と権田は言って、徳山のカメラを預かった。「現像しいて、本部に送る。こやつが、戦士らの物々交換に役立って、適材適所いうもんになるんじゃ。まあ、今は我々強いきな。取られることももらうこともない。」と権田は言う。


激戦を終えた彼ら戦士たちは、それぞれに上がった息を整えながら、その場を去って行く。あるものは腹を抱えていたり、腕をかばうようにして歩いていた。

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