第20話 laser

大和を見ると、さきほど少し走って汗が出たのか、でっぷりと太って腫れた腹の部分のシャツがジワリと湿り、それが胸のあたりまできて、乳首が少し写っている上に、さらには親指を旨そうに舐めしゃぶっていた。権田には眼もくれず、少し離れたところで数対数の対戦を眺めている。何をやっているのか?


『あのさ、あいつは何をしてんの?権田さんがいないときは、権田さんを呼びに来るのが仕事だけど、もう近くにいたら用はないんじゃない?』と徳山は心のどこかで役に立っていない自分と大和を重ねて、自分のことは棚に上げて大和を批判していた。とはいっても、配属初日、何かできるほうが奇特だが、とはいえ、強い能力を有して配属された郊外部だ。戦えないのは不本意である。


『大和はよじんぼ(用心棒)だ。おい(おれ)は治癒専門じゃけえ、戦えん。もしおい(おれ)が狙わらば(狙われたら)、大和が援護しよる(する)ったい(んだ)。』と権田は答えた。


その矢先である。奇襲をかけて来た者が敵にいた。円盤状の光線(気円斬みたいなやつ)をこちらに放射し、あわや切り刻まれるところだったのである。がしかし、大和がその図体に似合わぬ機敏さで、権田と徳山の前に立ちはだかり、腹部から強烈な熱線を発射した。一瞬にして飛んできた気円斬は消滅し、大和の熱線はさらに気円斬の投擲者に向かっていく。次の瞬間。『ドゴーン!』と爆発音がしてその敵のいたところは塵と化した。


『強ええなあ!大和!』と徳山が叫ぶと、『おんし(おまえ)、焼けとるぞ。』と権田が徳山に言った。徳山が、自身の全身を見渡すと、ようやく気付いた。身体から、防御本能が働いたのか、無数の毛細血管のようなものが徳山自身を守ろうとしたのか包みこむように放出され、それが先ほどの熱線に引火したのか、チリチリと焦げ、火の粉が散っていた。


『あぢいっ!』と徳山が叫び、手で煤っぽくなった患部を叩く。やがて毛細血管のようなものは体内に引っ込み、事なきを得た。それを見た権田は、にやりと笑った。


『おんし(おまえ)、もしやこれからまかせる報告係の仕事、むいとるかもしらんの。』と権田は言う。どうやら、徳山の身を護る毛細血管状の物の働きが、権田の目には、非常に高い防御力を誇るとみられるらしい。戦うことは遠慮させられるとしたら、そういうことだろう。権田はやけに得意げである。


『そんなこと言われても実感わかねえよ。』とあくまでぶっきらぼうな徳山であった。

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