第9話 recruit

3人は別れ、別々の帰路についた。徳山は、住まいである実家に帰った。


「ただいま。」と神山が言うと、リビングからドラマを見ていた母がフェイスパックをした状態で出てくる。いつもなら、家にいる時間である彼は、今日は母にデートに行くと知られており、長丁場のデートだったと母に思い込まれている。となると、厄介な誤解を生みそうだ。


「あらあ、遅かったわねえ。お風呂湧いてるわよ。終わったら流しといてね。デートどうだった?初めてのデートにしちゃ、長かったわね?初デートは早めに切り上げて、次にまた会いたくなるように楽しみを置いとかないと。あらやだ、あたしったら助言ばっかり。」と母は何やらおせっかいを言いまくっている。


実のことはもちろん臥せるが、彼なりに母には心配をかけているので、いろいろと話す必要は感じていた。というのも、昨日まで彼はニートで、親のすねをかじりながら、出会い系サイトで彼女を作った。とはいえ、詳細は言えないが、体裁上の繕いはしておいた。


「あのさ、就職先決まったよ。ああその、彼女とは、デートがうまく行かなくて、今日さっそく愛想つかされたんだけど。そのあと言ってなかったけど、今日形式上の面接があって、ああ、それに行けたのは俺の知り合いに仕事紹介してくれるやつがいて教えてもらったんだけど、警備員みたいな?なんか、人を守る仕事に興味があったから、即日採用されて、今日から働き出した。よ。」と徳山は部隊に入ったことをそのようにオブラートに包んで説明した。それにしても説明が拙い。


母は、何を言っても何をしても心配そうな人種だが、息子が働き出したと聞いて少し嬉しかったのか、「そうなの!?すごいじゃない!即日採用なんて珍しいわね!じゃあ、明日お赤飯にしましょ!お知り合いさんも、親切な人がいるみたいで、安心したわ。」と母は喜んでいる。


「じゃあ、俺飯食ってきたから。新人歓迎会あってさ。もう風呂入って寝るわ。ドラマ、放送中でしょ?戻りなよ。」と徳山は母に言い、ふらふらと二階に上がった。徳山の父はもうすでに明日のサラリーマンの仕事に備えて寝床に入っている。


「あ、そうそう、警備員の仕事って、夜勤とかあるの?」と一階から母が聞いた。しかし徳山は、どういう出動状況になるかわからないので、「まああるんじゃないかな。2交代制か3交代制かで廻しているとかなんとか、聞いた気がするし。確認しとくよ。」と適当なことを言って、その場をごまかした。

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