第6話 grade

「そういえば、僕、腕や脚がムズムズするんですけど。これなんですか?なんか、見たら腫れてて…。なんかあのバケモノたちの菌が移ったんですかネ…?」と新井は心配そうに神山に聞いた。


今三人は、本部から出て、駅前の居酒屋にプチ新入生歓迎会をしに来ている。たった三人でだ。


神山は答えた。「おそらく君を捕まえた女が、トイレで怪我をした際に飛び散った血が君に沁み込んだ。身体に害を及ぼすものではない。キミの横にいる男はあいにくまだ一つもそれをもらえていない、貴重な能力というものだ。」と。


「へー、相手の血潮をあびることで能力を受け継ぐことができるんだな?不思議だなあ。」と徳山は彼のことを言っているのに、けろりと他人事のようにそう感想を述べていた。


「ただ、最も強力なのは、相手を完全に抹殺したときに返り血を全身で受けたときだ。それに対して、数滴の血の飛沫など、微細な能力にしかならないかもしれない。」と神山は若干の口惜しさを滲ませ、そう言った。


「まあ、ないよりはいいよなあ。新井君ニヒニヒ(笑)」と徳山は羨ましさ半分可愛さ半分な中途半端な感情を押し殺すようにはにかんでいる。彼からしてみれば、朝死にかけ、昼先輩ができて、夕方後輩が出来たのである。目まぐるしい一日に、どういう感情でいたらいいものか常人なら混乱するだろうが、そこが彼のタフなところだった。彼は笑えている。彼にとって、能力があるのは羨ましいが、後輩ができたことは喜ばしいことなのだ。


「しかし、あれだよな。なんで、俺たちの前に誰も後輩がいなかったんだよ?」と徳山は神山に疑問を呈した。


「お待たせしましたー。」とテーブルに注文したハイボール・カシスオレンジ・生ビールが届き、神山が生ビ・徳山がハイボール・新井がカシオレを持って乾杯した。


「さっきの続きだけど。実は、自分で言うのもなんだが、僕程真面目な部隊員もいないもんでね。だから、キミらが来るまでは、僕が助けたメンツは全員、他の部隊員配属になっていたというわけさ。」と自嘲気味に神山は説明した。


「なんでそんなになんか、苦笑いというか。」と徳山が聞くと、神山は説明した。


「まあ、教えておいてやるか。」と言ってから少し間を置いたあと、スッと息を吸って一息に。「お前ら会ったらびっくりするぞ。時々、僕以外の後輩持ちが本部に顔を出すが、あいつらは教育者には向いてねえ。マジでどうかしてるやつばっかだ。僕は、幸い親切丁寧で、君たちをちゃんと守りながらOJTしているだろ?そんなの他の奴にはないからな。」と表情をコロコロ変えながら神山は二人を脅し口調でそう言った。


さらに息継ぎして、「富樫とかいうやつ。お前ら名前、覚えとけよ。あいつはサイコヤクザだ。たまにしか顔を出さないくせに、ろくにサンプルを持って帰らずに、敵の淫魔を殺した挙句、死姦しやがる。実際にそれで助かる被害者もいるのだが、あまりの光景にショックでPTSDになり、無事生きながらえた彼らの中には、部隊に入るどころか、心療内科に通うことになった者もいる。あいつは腕が立つから、部隊も文句言えねんだが、やり方が大胆過ぎる。先が思いやられるぜ。なんだろうな、あまり、先のこと考えてないのだろうな。俺とは正反対だ。」と感慨深くまるで独り言のように神山は話した。


「そんな人に助けられるよりは…。よかったです…。」とグロテスクなビジョンに免疫がないらしい新井は震えている。もともとバイオレンスな映画が好きで嗜好が現実的な世界とリンクした徳山は少しだけ瞳孔を開け、楽しそうにそれを聞いていた。


「あれと比べたら僕なんてかわいいもんよ。まあ、他にもやべえやつはいるが、特にヤバイのは富樫くらいなものだ。それにひきかえ僕は優等生よ。ちゃんと、ストライクやグラップリングなどの格闘も教えられるし。ああ、昔は格闘技これでもかというほど経験させられたものでね。それでなんだが。それに、いざって時は、お前らを守れるし。」と神山は自画自賛するように言った。


座席にはおでんの盛り合わせと刺身、タコワサや梅クラゲなどが運ばれて来て、いよいよ彼らは腹が減っていたのか、黙々とそしてガツガツと食べだした。まだ、注文した焼き鳥盛り合わせと卵焼きは届いていない。

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