第3話 outside

徳山は神山から自己紹介を受けた。今二人は、更衣室にいる。これから出動し、また新たなる事件の火種を消火し、人命を救助する。それに徳山は見学のため同行させてもらうことになった。


「改めてなんだが、俺の名前は神山豪。お前がここに移動してきたのは、俺の失神能力によるものだ。俺は、身体から電気を発する体質を持っている。それを駆使すると、相手を失神させることができる。強力な殺傷武器ではないが、戦闘状態から一気にダウンさせることができるので、密偵として活躍してる。お前はまだ能力がないが、いずれ本部から何かを与えられるようになるだろう。体質は、もらって後天的に備わるものだ。それが部隊のシステムだ。」と彼は言った。


なるほど、徳山は瞬間移動したわけではなく、水族館からここに来るまでの間、失神していた。だから、意識のない間の記憶が抜け落ち、意識が戻った瞬間の感覚のみが接続されて、この場に瞬時に移動したように感じられたのだ。と徳山は納得した。


「今我々は戦闘部隊と密偵部隊とで別行動をしている。破壊工作をする敵と、性的搾取をして男を殺す敵と二通りいると考えてくれ、戦闘部隊が破壊工作の敵を倒し、密偵部隊が搾取敵を捕まえている。捕まえた敵はここで研究材料とともに、人間と、体質素性物質に分けられる。お前の女は、もともとだった流鏑馬マイに戻るとき、彼女の身体に植え付けられた透明化能力の因子が摘出される。それはおそらくまた別の班員に回るだろうが、お前にはすでに摘出された別の因子が植え付けられて、密偵操作に活用されるようになる。わかるか?」と神山は確認した。


「はい、わかります。」と徳山は迎合した。つまりは、神山が能力を有している以上、過去に人間に戻れた女性がおり、その女性が魔性菌によって有していた能力を神山が引き継いだということだろう。ということは、流鏑馬マイが流鏑馬マイに戻ることは可能ということである。といっても、彼女が得ていたチート能力が直接自分が得ることができないのは悔しい。


「俺が彼女の能力を得るまで、他のサンプルを拒否することはできないんですか?」と徳山は確認してみた。あくまでも、ほかでもなく彼女の因子を受け継ぎたいという意思である。誰かもわからぬものの因子を受け継ぐのは、あまりに滑稽だ。


「そういうと思ったぜ。俺もそうだったんだ。過去に付き合っていた女が、敵になったときに、この人たちに救われた。そして、俺も同じことを言ったよ。」と神山は言った。徳山は安堵した。


(残酷なことに、徳山はこの時代にサキュバスに遭遇したから因子を引き継げる技術があるからよかったものの、実は神山がここに来た時代には、その技術はまだなかった。神山は、徳山を安心させるため優しい嘘をついており、神山が昔、この帯電能力を得たのは、その能力を持った彼女を命からがらうちたおし、その血液を浴びたために能力を得たのだった。それを知っている神山は、徳山が今後能力を得るまでに、ある程度の時間がかかるが、いつか流鏑馬マイの能力を得られることを確信しているが、ただ、今時点では、人工の因子は沢山あるものの、彼女の因子を引き出すことができるかは、未知数であるというのが本当のところであった。つまり神山は、徳山に理想を現実かのようにみせる優しさがあり、残酷なまでの親切心があったのである。)


安堵した徳山は、神山の顔を見上げた。すると神山が少し表情を曇らせたような気が刹那した。しかし、気に留めず、神山のこの言葉に威勢よく返事した。


神山は言う。「ほう、能力なしでこれから俺についてくるのか。頑張れよ。無事を祈っているぜ。」と。そう、彼は、人工能力を受け入れずこれから先の見えないマイの分離までずっと無能力状態で神山と協力して戦っていくのだ。神山が嘘をついた以上、彼の胸にこれ以上に責任を感じる事象はない。


徳山は「おう!」と言った。


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「市街地で密偵部隊、地方で戦闘部隊は活躍する。それは、市街地の方が人が多く、性的搾取目的の淫魔が常人に紛れて潜伏しやすいからだ。地方は、逆に、過疎が進み人目につきにくいため、破壊工作がしやすい。それぞれの役割は、開けた肥沃な土地に巣をつくり、万全の土壌で繁殖をすること。それは共通している。」と神山は言いながら、私服姿で徳山と市電に乗った。


「目立たないように、俺たちは公共の乗り物を使っている。ああ、お前に初めて会ったときは派手な格好をしていたが、あれはこの背中のリュックに収納してある。最大限に能力を発揮するときに、折りたたまれたそれらが外に出て、あの時の格好になる。その時に目立つから、あまり意味ないんだが。」と神山は笑った。


「けっこう手の込んだもん持ってるんだなあ。金はどこから?」と徳山は聴いた。徳山は金に関することは割と興味があり、高級住宅街やスーパーカーなど、ネットで見るのが好きだ。ネットの画面以外で実物は見たことがないというのが彼のネックだ。


「さあな。値段は知らねえ。支給されるんだ。いい具合に。」と神山は興味なさそうに答えた。

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