第17話

 この世はいま、朝を迎えようとしている。

 眩しい太陽の光に黒い海は青く燃やされていた。

 私の心が燃やされていた。

 紫がかった明けの空がただ美しい。

 サツキはこの景色を見ようとはしなかった。

 自分を騙せなかった。堕ちていく自分を許せなかった。

 私たちはこの醜い世界のなかで、美しく尊いものを見つける。私たちを導いてくれるものを探して崇拝する。

 ただ、それだけを目に焼き付ける。

 心に大志が宿るように。暗闇に吸い込まれないように。

 物事の本質を覗かずに、平面上だけをみて思考を

 完了させる。それすら本物となるように、自分を騙して許して生きていく。

 穢れてく私はこの世界と同等だ。

 それなのに、こんなに綺麗な光がまだ私を照らしてくれる。

 この醜い世界を明るく取り繕う光がある。

 明け方にも、真夜中にもそれは輝いている。

 その光がある限り、私はもっと愚かになれるだろう。

 生まれてきたことを望んだわけじゃない。この世に落とされた自分の命は、人々の愛で生かされているだけだ。

 ならば私は存分にそれを行使する。

 生きる楽しさから苦しさまで味わってやる。

 寿命が訪れるまでなんのために生まれてきたのか考えてやる。

 死んでやるものか。私を殺してやるものか。

 サツキのために私は命を燃やす。

 魂を削ぐようにもがく。サツキがそう生きていたように。

 私がこれから生きていくことで自分を殺めたサツキを否定する。

 だとしても、私は誰よりも貴方が愛おしい。

 貴方はこの世界のどれよりもただ純白だった。

 生き抜くための狡さを知らない貴方は、決して黒くなれなかった。

 安定しない、危うい光をただ放っていた。

 煌びやかな街の外灯も、はるか高い月の光も、黒い海もその光を失くしてしまった。生かすことはできずに全てを飲み込んでしまった。

 それならば、私が貴方を生かしてやる。

 真夜中の海に浮かぶ低い月のように、愚かになっていく私を照らす希望となるのだ。

 貴方はいまでも私の光。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る