第13話
私は会社に行けなくなっていた。
友人と会った夜から約二週間が経っていた。
外から雨がぽつぽつと降りはじめている。
体調を崩して横になることしかできなくなった私は、サツキの言っていた苦しみを前よりか少しばかりは体感できただろうか。
ふらふらになった体に力をいれると、その反動に頭に悲鳴が聞こえたような痛みが走る。
飽きるまでサツキのことを考えていたらなにか答えが出たり、すべてを消化できたりするかと思ったけれど思考が途絶えることはなかった。
こんなに辛いのか。こんなに孤独で寂しいのか。
コップ一杯の水を体に押し込むように流して、また横たわる。
視界は模様もなにもない天上で広がっていた。ただ白かった。それが真っさらなキャンパスとなり、クレヨンを自由自在に走らせるように私の思考を助長させる。
吐きそうだった。
吐いちゃいけない気がして喉を締めると、一筋の涙が流れて耳に伝わり、気持ちが悪い。
サツキが電話で泣いていたときも多分こんな状態だったのだろう。
私が最後に聞いたサツキの声すらいっぱいの涙を含ませていた。それは今まで聞いた声のどれよりもさんざめいていた。
嵐の日だった。
「...どんなに消えたくて、死にたくったって"それ"は許されないでしょ。...私は、いま、死なないことしかできない。弱い、弱くて大嫌い」
頭に響くサツキの声は私の前向きな言葉を奪っていく。
サツキを苦しませるこの世界が醜かった。死ぬというのがサツキの救いになるなら、私はそれをサツキに薦めてしまいそうだった。
サツキが願った''強さ''よりサツキのもつ''弱さ"を私は愛していた。苦しみを噛み締めて身を削るサツキを私は同じ人間とは思えなかった。
もっと抱きしめればよかった。
鼻をすする音がした時点でサツキの家に駆け込んでいればよかった。
サツキの泣き顔をもっと見たかった。
この両手でサツキを包んで、この口でサツキを甘やかす言葉を永遠と並べればよかった。
サツキの名前をもっと呼びたかった。
押し寄せた後悔の波を吐き出すように私は声を荒げて泣いた。
サツキの名前をいまさら呼んだ。何回も呼ぼうとしたけれど、絞り出した自分の声の懐かしさに嫌気が差して口を手で覆った。
雨はだんだんと勢いを増して存在を主張する。泣き疲れた私はさざめく雨音に包まれながら眠りについた。
私は夢を見れない性質なのでなかなか深い眠りにつけない。サツキと夢で会うことさえ許されなかった。
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