第10話

 サツキは人に明るさを与える才能があると私は思っていたが、本当は真逆で相手がサツキを明るくしているのだった。

「人と話すのはすき。相手を選ばずに元気になれる」

「嫌いな人でも?」

「合わないと思ったら話さなくなるから意識したことないかも。合わないと感じる前の会話は楽しかったと思えるし。ほんとに人と話すと勝手に元気になれる」

 私はサツキのことをずっと見つめて理解しようとしているのに、予想したことなに一つ当たらなくてサツキの人格が深すぎるせいにした。

 その諦めを責めるように、サツキは私自身すら分かっていない私の癖を見抜いたり、知らぬ間に人の観察をしていて、人という生き物が好きなのだと感じた。

 また、サツキには一刀両断なところがあった。合わないと思った人はきっぱりとその関係を切る。見返りを求めずにはいられないからという理由だけで、ギブだけの優しさを追求するのではなく優しくすること自体やめてしまう。

 とても不器用で衝動的だった。

 私はまだどこかでサツキの死を虚構であると感じているのかもしれない。

 そんな馬鹿な私を咎めるように、頭に殴られたような痛みを感じて泣く夜が多々あった。

 あの日のような夜──サツキを思い浮かべて泣いた夜──はサツキの死を弔って涙を流したわけではないと思ってる。

 直通の痛みが脳に刺激され、その反応に涙が分泌されているような理性的なもので、その涙すら私の痛みになっていた。

 私を私のなかの黒い海が襲う日も、涙が流れるほど頭が痛くなる夜も、私のそばにはサツキがいてくれた。

 サツキの死を受け入れられないのに涙を流すのは愚かだ。

「縋り付いてるんだなあ」

 友人が私に向けた言葉は同情ではなく、多分批判だ。

「自分の身を削ってサツキちゃんを想っても戻ってこないよ。それを自己満でやっているのならなおさらやめて。死ぬよ」

 社会の狭さを知ってしまった彼女の言葉は冷たいけれど、言っていることは正論だった。

 サツキを弔いたいのに受け入れられない。

 手順は頭で理解しているけれど実行に移せない。

 手放さなきゃいけないのにどうしても縋りたい。

 私には勇気がない。







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