第7話
友人と帰路を進む。
夜風がふんわりと私の体の輪郭をなぞって、居心地がよい。
「死なせたのはあんたじゃないからね」
優しい夜風に混じってそう告げた彼女の目がふんわりとぼやけた。
「...そんな大層なこと思ってないよ」
「大層ではないよ。悲劇のヒロインぶってるようなものだね」
彼女の言葉は鋭く、矢を放つ。
私は笑って言葉を返した。
「サツキに対して献身的になってしまうところはあるかもね」
それを聞いた彼女はゆっくりと肩で一呼吸してから、私の目を強く見つめてこう言い放った。
「もう、いないのに?」
彼女の静かな低い声が空中へと消えていった。
鼓動がだんだん早くなっていく。
私は彼女の言葉を心のなかで反芻した。
もう、いない。
もういなくなってしまった。
泣きそうになる顔をゆがませて力を汲む。泣きたくないがために唇を噛んで目を細くするのは、泣きますと言っているようなものだと私の顔を見て眉を寄せる彼女から気付かされた。
忘れていた大事なことを思い出したように、今度は目を丸くして大粒の涙を頬に伝わせながら私は問うた。
「なんで、死んじゃったんだろ...」
夜風が勢いを増していく。
歩く速度を失った私たちを幾つもの人間が追い越していった。
「...分からない。それは誰にも分からない」
冷徹な彼女の言葉は私に寄り添ってはくれない。
覚めて欲しくない夢がいいところで終わってしまうような、私が私にかけた魔法を溶かす薬であった。
嗚咽が声に出ないように努めようとするだけ、私の顔は不細工になっていく。
彼女の手が私の背中に触れたとき、スイッチを押すように私の理性が壊れた。
私は声を絶えて泣いた。
息の混じったかすれて使えない声がだんだんと大きくなってすかさず手を当てる。立つこともままらなくなり、私はしゃがみ込んだ。
「...苦しい」
私の背中をさすう彼女にではなくサツキにへと示したその声は、空高く伝うことなく夜風に揉まれて消えた。
私の視界を暗い藍色の空が覆う。
空を見上げれば、サツキが見えるだろうか。
あの広く暗い空がサツキを襲ってしまったのだろうか。
それでも壮大な雲空に抗うように、集う街灯や月の光が人々の帰路を現してくれる。帰る家には光が灯されている。
遥か彼方には、違う世界線にはサツキがいるのだろうか。
この世界にはサツキの好きなものも、好きな匂いも、好きな歌もあるというのに。
こんなにも街は煌びやかだというのに。
こんなにも綺麗な光を放つ月があるのというのに。
その光はサツキを救ってはくれなかった。
貴方はどうしてこの世界から消えてしまったの。
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