第8話 生まれて初めて

「・・・助けてくださって、ありがとうございました」


少女は手当てしてもらった箇所の具合を確認したあと遠慮がちに礼を言った。


「・・・気にするな。もう大丈夫そうだな。

ところで君はどこに向かっているんだ?まだ傷も治りきっていないことだし、魔物のあまり出ない場所に着くまでは俺が一緒のほうが安全だろう。送っていくよ。もちろん君が嫌でなければだが」


男は自分の口からそんな言葉が自然と出たことに驚いたが、その事はおくびにも出さずに少女の返事を待つ。


「・・・」


少女は男をじっと見る。


(何だろう。目の前のこの人は人族なのに・・・なのにどうしてこんなにも優しい目をしているの?)


少女は今まで受けたことのない優しい言葉に戸惑っていた。


大分長い間、答えに迷っていたが、男は少女が自分から返事をするまで急かしたりせず、じっと返事を待ってくれていた。


(・・・この人を信じてみよう・・・)


少女は目の前の男に自分の話をしようと思った。


「・・・助けて頂いた上、本当に申し訳ないのですが、質問にお答えする前にわたしの話を聞いて頂けませんか?」


上手く話せたか分からない。


どうしても人と話すときは、今まで受けてきた経験から自然と体が震え、声がかすれる。


特に自分からお願い事をするときはなおさらだ。


「・・・ああ、構わない。場所を移しても良いか?そろそろさっきの魔物が起きるかもしれない」


「えっ、その魔物・・・まだ生きているのですかっ!?」


少女は男の目の前で大の字にひっくり返っている魔物がまだ生きていると聞かされて思わず大きな声を上げる。


「・・・ああ。気絶させただけだ。ちょっと待ってろ」


男は自分と魔物の間にあるまだ地面に落ちたままになっている短剣を拾うと右腰にある鞘に短剣を納める。


「・・・」


(うそ・・・あんなに強そうな魔物を武器なしに素手で無力化したなんて・・・信じられない)


少女は魔物の強さの程度を理解していた訳ではなかった。


だが、先程体験した恐怖の度合いから考えて、今回遭遇した魔物が相当な強さだと思っていたのでそれを容易く無力化した目の前の男の行為が異常としか思えなかった。


「・・・なんだ?何か言いたそうだな」


少女の気持ちが目に宿っていたのだろう。


短剣を拾った男は少女の目線に違和感を感じ、そう尋ねる。


「い・・・いえ、別に何も」


少女は男の言葉に対して慌てて否定する。


「・・・悪いな。俺は今のところスライム以外倒す気が無いんだ」


男は少女の様子を察して端的に語った。


「ぷっ・・・なにそれ。あははははは」


男の言葉を聞いた瞬間、少女は生まれて初めて人の前で笑っていた。


そして今までは常に他人との関わりで、心に壁を隔ててきた少女はこんなにも自然体で人と過ごしている自分に驚いていた。


それと同時にこの人族のことをもっと知りたいし、もっと一緒にいたいと思った。

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