第7話 警戒

「・・・大丈夫か?」


少女が呆けていると、男がこちらを心配そうに見て声をかけた。


「えっ!あ、はい。大丈夫です!!あれ?・・・いたたっ!?」


一瞬遅れて我に返った少女は男が自分に話し掛けていることに気が付くと慌てて返事をする。


と同時に、安心して気が緩んだのか、左肩の怪我の痛みがぶり返し思わず顔をしかめる少女。


「・・・余り大丈夫では無さそうだな」


男は少女の状況を理解して近づいてくる様子だ。


「来ないでっ!!」


次の瞬間、少女は思わず叫んでいた。


への字に曲がった唇からも警戒心が垣間見える。


ピタ


男は少女の言葉に従い、歩みを止める。


「あっ・・・ごめんなさい・・・」


この人は命の恩人だ。


少女は咄嗟に出てしまった言葉を後悔しつつ、男にすぐに謝る。


同族である魔人族達からも長い間差別を受け、最後には追放までされた少女にとっては誰ひとりとして心から信用できる人物はいない。


他人に近づかれる事も恐怖でしかなかった。


しかも、相手は人族。


この人族を信じたいという気持ちが芽生えつつもどう接したら良いか少女には全く分からなかった。


「・・・」


だが男は少女の目を見て悟っていた。


(ああ。この目は知っている。昔の俺と同じ目だ。誰も信じられなかったあの時の俺と・・・)


男はそれを悟ると、急に目の前の少女を本当の意味で助けてあげたいと思った。


「・・・安心しろ。その肩の傷の手当てをしてやりたいだけだ。」


「・・・」


男の態度に少女が先ほどよりは若干警戒心を緩めたようだ。


少女の唇のへの字がさっきより緩んでいる。


「・・・近づいても良いか?」


もう一度優しく尋ねると、


こくり


少女が遠慮がちに小さく頷いた。


フッ


男は少女が頷いたことを確認し、ふっと優しく微笑み、ゆっくりと一歩一歩近づいて行く。


やがて少女の目の前までくると、


「・・・手当てをするから右手をどけてくれるか?」


と問う。


「・・・」


すっかり大人しくなった少女は返事の代わりに右手をどける。


そして血にまみれた右手を自分の頭の上の何かを隠すように置いた。


「・・・傷は思ったよりも深く無いようだな。これなら低級の回復薬で大丈夫そうだな。少し染みるぞ」


男は少女が何を隠したいのか気が付いたが気が付かないふりをする。


傷の具合から必要な回復薬の種類の検討をつけると懐から小瓶を取り出し蓋を開けた。


「っ!?」


男が回復薬を少女の傷口に掛けると痛そうな様子を見せながらも声を出すまいと必死で耐える。


「・・・よし、これでいいだろう」


男は少女の傷の状況を確認した後そう呟き、数歩後ろに下がる。


それは、警戒している少女にこれ以上刺激を与えないようにするための配慮であった。

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