第4話 異変

「・・・」


一般の家にしか見えないパン屋を出たガイは無言のまま歩き出す。


段々と村から外れ、周りには人がいない。


やがてガイは魔物が多く出没するエリアである森にやってきた。


「・・・」


恐れることも動揺することも無くそのまま森に入るガイ。


森の中には魔物の鳴き声、魔物の移動による木々のざわめきが聞こえる。


だが、不思議とガイの前に現れ襲いかかってくる魔物は皆無であった。


やがて辿り着いたのは森の中の山の側面に空いた穴である。


ガサ


申し訳程度に塞いでいる枝で作った覆いを取ると中に入っていく。


さらに少し進むと段々と暗くなり、視界は不良。


そのような中、ガイはまるで見えているかのように歩くと、徐ろに立ち止まる。


パチ


一体どうやったのか灯りがつく。


そして、山の中にも関わらず整地された空間が現れる。


床や壁、そして天井に至るまで綺麗に均されていた。


まるで生活感の欠片もない場所だ。


「・・・」


ガイは適当な場所に座り込むと早速とばかりに先程購入した黒パンを一つ取り出しかじりつく。


しばらく村に行っていなかった事もあり久しぶりのまともな食事であった。


固い黒パンをよく噛みながら2、3個食べると残りのパンを丁寧に地面に置く。


どうやら食事は終わりのようだ。


続いて腰につけた革製の水筒を取り出す。


「・・・空か・・・水でも汲みに行くか」


中身が何も入っていないことに今気がついたガイは立ち上がり灯りを消した後で移動を開始する。


暗がりもこなれた様子で洞窟から外に出る。


一瞬だけ、外の眩しい光に目を細めるガイ。


すぐに目が慣れたのか水場に向かって歩き出した。


森の中にやってきた時と同様、ガイの周りには魔物はやって来ない。


「・・・」


ガイはそんな状況を気にした様子も無く水場に向かう。


いつも通りの日常。


このまま今日という一日も終わる。


そう思っていた。


「きゃあぁぁぁぁぁ」


だが、それは一つの悲鳴で呆気なく覆された。


ダンッ


悲鳴を聞いた瞬間、無言のままガイは地面を力強く蹴り走り出す。


まるで弾丸のように駆け出すガイは先程まで遭遇しなかった魔物達を目の辺りにするが、


っ!?


驚いた事に慌てて道を譲るのは魔物の方であった。


(・・・間に合うか?)


ガイは疾走しながら不吉なことを考える。


実際のところ冒険者の間でも悲鳴を聞いてから駆けつけても間に合わないことが多いのだ。


そのため、大体の冒険者は遺体の埋葬と遺留品の回収。そして、死亡の報告をするのが通例になっていた。


(・・・どこだ?)


ガイが悲鳴が聞こえた辺りに辿り着いた時には争った跡はあるが、悲鳴を上げた人物は見当たらないことを訝しむ。


(・・・闇雲に探している時間は無い。)


視界が悪い森の中では当てずっぽうに走り出しても良い結果は生まれない。


直ぐに動き出したい感情に駆られるが、理性でその行動を押さえる。


ガイはどんな音でも聞き逃さないように両手を耳元に当て、集中する。


まるで数十分が経つかと思う位、1秒が長く感じられる中、ガイの耳が音を捉える。


「たす・・・けて・・・」


それは、恐怖に怯え切ったかすれた声。


だが、ガイはその声を聞き逃さなかった。


(・・・あっちか!!)


ドンッ


ガイは勢いよく地面を蹴り、声のした方向に急行した。

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