第3話 世評
ギルドを出たガイは迷うことなく真っ直ぐとある場所に向かっていた。
その道中で村人とすれ違うとガイは軽く会釈をする。
意外なことに村人も笑顔で会釈を返す。
中には軽く雑談を交わす者さえいた。
ギルドでは厄介者扱いのガイであったが、村人からガイに対する悪感情は無い様子である。
それもそのはず、冒険者にとってはスライムなど取るに足らない魔物ではあるが村人にとってはそうではないのだ。
しかも、村人が最も遭遇する魔物のベスト1位がスライムなのだ。
そんな日常の脅威を取り除いてくれるガイの存在は村人に取って有難い存在以外の何物でも無かった。
更にガイは国中に知れ渡るほどにひたすらスライムを狩り続けている。
つまり、もうこの村で過ごす日々もかなり長いのだ。
ガイが礼儀正しい事を知っている村人達がガイを疎ましく思う理由は何一つなかった。
しばらくすると、ガイはある家の前に立ち止まる。
ただの平屋の家である。
キィ
内開きの木製の扉を軋ませながら開けると迷うことなく中に入って行く。
「・・・邪魔するぞ」
ガイが中にいる人物に声を掛けながら敷居を跨ぐ。
「おお、お前さんか、いらっしゃい。いつものか?」
中に居た年配の男がガイに向かって笑みを浮かべる。
「・・・ああ。今日はこれで」
ガイは返事をすると手に握った物を年配の男の前で広げる。
ジャララ
ガイの手を離れて小気味の良い音を立てる。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・銅貨5枚ね。ちょっと待ってな」
ガイが出した硬貨を数えた男はすぐに懐にしまうとゴソゴソと何かを用意し始める。
「はいよ。いつもの黒パン。少しサービスしておいた」
男が渡した袋を受け取るガイ。
「・・・いいのか?」
意外と量の多い袋に少し驚きながらガイは男に尋ねる。
「ああ。もちろんだ。いつもありがとうな。お前さんのお陰で儂らは穏やかに暮らせているんだからな」
「・・・礼を言われる必要なんてないぞ。俺は俺のためにやっているだけだからな」
男の言葉を素直に受け止められないガイははっきりとそのように告げる。
「なぁに、お前さんがしたいようにしようがどうであろうがその行動が儂らを救ってくれているんだ。遠慮なく受け取ってくれ」
「・・・すまないな」
ガイは受け取る以外の選択肢はないのだと理解するとそのまま背を向けて出口に向かって歩き出す。
「行くのか?」
「・・・ああ。金が溜まったらまた寄らしてもらう」
「そうか、気をつけてな」
男の言葉を背に受けてガイは扉から出ていく。
一人になった男・・・パン屋の主人は呟いた。
「本当にお前さんには助かっている。だが、そこまで頑なにスライムばかりを狩らなくても良いんだぞ」
パン屋の主人は知っていた。
あのガイと言う青年が冒険者達の間でどんな扱いを受けているか。
そしてどんな扱いを受けようとも頑なにスライムばかりを狩り続けている事を。
そのせいで悪名が国中に知れ渡っていることも。
この数年の間、村の中でもガイの事について話し合われたことは1度や2度では無かった。
議論の焦点は村としてガイをどう扱うか。それに尽きた。
いくら自分達村人のために貢献してくれているとしても周りの目を気にしないといけないこともあるからだ。
幸いなことに村人の総意としては国中に広がっている噂なんかよりもガイという無愛想だけど根の優しい青年の村への貢献を優先している。
だがそれもいつまで持つか分からない。
「お前さんにはお前さんなりの曲げられない志があるんだろうがもしそれが儂らのためというのであればもっと自由に生きて欲しい」
パン屋の主人はガイの見えなくなった背中を思い出しながらそう願うばかりであった。
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