第2話 勇者
「本当にこんなところに来る必要があったのか?」
戦士風の男がうんざりした様子で呟く。
「そう言わないの。竜の目撃情報があったのがここなのだから我々としては来ないわけにも行かないでしょ。ねぇ、セシリア?」
魔法使い風の女が戦士風の男を窘めるように言うと先頭を歩く少女に同意を求める。
「そうだね。マリーの言う通りだよバルド。僕たちは勇者パーティなんだから」
白い髪のショートカットの元気の塊のような少女が戦士風の男に言う。
勇者。
それは魔王が魔物を従え、世界を征服しようと激しい戦いが蔓延している現代において人類が見出した希望と言って良い人物だ。
「わかったわかった。真面目にやりますよ」
戦士風の男・・・バルドは仲間たちの言葉に肩を竦める。
「バルドじゃないけど、さっさと竜を仕留めて都会に戻りたいっていう気持ちはあるからね。悪しからず」
ちょっと言い過ぎたかもとでも思ったのか、魔法使い風の女・・・マリーがバルドを遠回しにフォローするように言う。
「何だぁ?・・・まぁいいか。でもこんな田舎は早く退散したいよなぁ。酒も満足に無いだろうし」
酒好きのバルドが嘆くように言う。
「あはは。それは同意よ」
同じく酒好きのマリーがバルドに同意する。
「あんな苦い物のどこがいいんだか・・・」
酒があまり好きでないセシリアがここから退散したい理由を語った二人の気持ちが分からず肩を竦める。
「まぁ、セシリアも大人になったら分かるさ」
「そうね。あと数年の辛抱よ」
「・・・うーん。そう言うものかな?」
酒の話で会話が一度途切れ3人は街道を警戒しながら歩いて行く。
街道とは言っても田舎の方なので木々や草をなるべく取り除いた程度のもので、すぐに生えてくる雑草が点在している。
「そういえば、こっちの方じゃなかったかしら?」
単調な道を歩くのに飽きたのか、マリーが徐に声を上げる。
「ん?何がだ??」
同じく暇なバルドがマリーの言葉に疑問を投げかける。
セシリアは真面目なため、周囲の警戒を怠らないがただ歩くのもつまらないので二人の会話に耳を傾ける。
「何がって一つしかないでしょ?こんな田舎で有名な人物っていったらさ」
簡単に答えを出すと会話が直ぐに終わってしまう。
マリーが勿体ぶったように言うと、バルドはその言葉で理解したのか、
「ああっ!そういやそうだな。こっちだったな。あの『スライム・キラー』がいるのは!?」
合点が言ったとばかりに大きな声を上げる。
「何?その『スライム・キラー』っていうの?全く物騒な感じがしないけど」
セシリアが聞きなれない単語に疑問符を浮かべる。
「セシリア知らないの?ああっ、そうか酒場では良い話の種だけどお酒を飲まないセシリアなら知らないのも無理はないか」
マリーはセシリアが知らないことに驚いたが、すぐに理由を悟り納得する。
「『スライム・キラー』っていうのはね・・・」
そして、セシリアに説明し始める。
曰く、ある田舎の冒険者ギルドにはスライムだけを狩る異常な人物がいるらしい。
ただただひたすらにその行為を繰り返す。
いつしか人々は侮蔑の意味を込めこう呼んだ。
『スライム・キラー』と。
「・・・へぇ。全然知らなかった。世の中にはそんな人もいるんだねぇ」
セシリアはマリーの話を聞いて感心する。
「ちょっと・・・なに感心しているのよ?」
マリーはセシリアの予想外の反応に半眼になる。
「えっ?スライムとはいえ、魔物をひたすらに狩ってくれているんでしょ?僕にはどうしてそんなに蔑むのか分からないけど??」
セシリアはキョトンとする。
「はぁ。ねぇ、バルド。勇者様に何か言ってくれない?」
マリーが諸手を上げてバルドにバトンを渡そうとする。
「・・・何も言えねぇな。やっぱり勇者って変わってるわ」
バルドもマリー同様セシリアに分からせる事は無理だと匙を投げる。
「???・・・まぁ、いっか」
セシリアは先に言ってしまった二人の反応に疑問符を浮かべたが直ぐに気にしないようにすると後を追いかけた。
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