巷で有名なスライム・キラー。彼は誰よりも強かった
千石
第1話 スライム・キラー
「これ・・・今日の分」
ボロボロの服をまとった黒髪の少年が田舎にある冒険者ギルドのカウンターでカードを提示する。
それは一番最下級であるEランクのギルドカードであった。
「はい。承りました」
ギルドの職員が差し出されたギルドカードを受け取り、履歴を調べる。
どのレベルの魔物を何体倒したか
特殊な仕掛けによりギルドカードにはそれが分かるようになっていた。
(うわっ、またこの人スライムしか狩ってないよ)
表示された魔物のランクはG・・・Gランクの魔物はスライムしかいない。
「はい。これ、報酬です」
ギルド職員が銅貨を5枚テーブルに置く。
「・・・ありがと」
少年はテーブルの上の銅貨をやや乱暴に掴むと180度振り返り出口に向かって歩いて行く。
だが、その行く手を大きな影が遮る。
「おいおい、ガイよぉ。俺たちに挨拶無しで出ていこうとするなんてみずくせぇじゃねーか」
「・・・バズ」
少年・・・ガイは目の前の人物をチラリと見てボソリと名前を呼ぶ。
バズはこの田舎では最高ランクのCランクの冒険者で、筋骨隆々のスキンヘッドだ。
腕は立つが素行は悪いので有名である。
バズの他にもゴロつきのような連中が数人付き従い、笑っている。
「・・・悪いが急いでいる」
ガイがさっさと進もうとバズの脇を抜けていこうとするが、
「おっと・・・まだ話は終わってないぜ」
バズが手を広げガイの行く手を阻む。
「・・・用件はなんだ?」
仕方がないからガイが面倒臭そうに尋ねた。
「前からも言っているようにここから出ていけ」
バズがガイを睨みつけてくる。
「・・・何故だ?俺はあんたらに迷惑をかけた覚えは無いが?」
ガイは動じた様子もなく淡々と言葉を返す。
しびれを切らしたバズがガイの胸を掴んで片手で持ち上げると、
「てめぇのせいでこのギルドは良い笑いもんなんだよ!スライムばっかり狩りやがって!!スライムキラーがいるギルドだってな!!」
怒声を浴びせる。
だが、ガイは相変わらず淡々としたまま、
「・・・別に笑いたい奴には笑わせておけばいいだろうが」
ブチッ
ガイの言葉を聞いたバズが、青筋を浮かべるとすぐにガイを投げつける。
ドォォン
ガイは勢いよく飛んで行き、壁に激突する。
「お、おい、バズ。流石にやり過ぎだろ」
「さっさとずらかろうぜ」
バズの突然の行為に取り巻きが騒ぎ出す。
「ちっ」
バズはその言葉に舌打ちをすると、未だに土煙がたつ方に向け捨て台詞を吐く。
「いいかっ!次に会ったらただじゃおかねぇからなっ!!」
そして、取り巻きとともにギルドを出て行った。
「「「・・・」」」
ギルドに残った人間たちは沈黙のままガイが吹き飛んだ場所をじっと見ている。
見ているだけで誰も駆け寄ったりはしない。
やがて土煙が晴れると壁に空いた穴からガイが這い出てくる。
パン・・・パン・・・
服についた汚れを手ではたく。
見た限りでは怪我はしていないように見える。
「・・・」
ガイはギルドのカベに空いた穴を一度見てから、受付の方を黙って向く。
「気にしないでください。あとで直させますから」
ガイの視線の意味を悟ったギルド職員が首を縦に振る。
ガイは黙って頷き感謝の意を示すとゆっくりとギルドを出ていった。
「バズじゃねぇがあんな奴とっととどっかに行ってくれねぇかな」
「ああ・・・まったくだ・・・」
ガイが居なくなった途端口々に言う他の冒険者達。
ガイ・・・通称『スライムキラー』
来る日も来る日もひたすらにスライムだけを狩り続ける男。
いつしかその奇行は田舎町のギルドだけでは留まらず、王国中に広まっていた。
その不名誉な二つ名の所為でギルドの壁を壊すくらいの衝撃を受けたはずのガイに傷一つ無いことに誰も気づくことは無かった。
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