第5話:一癖も二癖もある人たち。

そんな訳で、俺の部屋に俺を守るためって死神のバニラが住みついた。


さて、バニラもそうだけど・・・。

できれば関わりたくないんだけど、たぶんいつかはバニラのことがこいつらに

バレるのも時間の問題。

できたら、俺とバニラをそっとしといて欲しいんだけど、そんな奇跡は起こら

ないだろうな。


ってこと一癖も二癖もある恵比寿荘の住人に触れておかなきゃいけないかな。

バニラがもし誰かに見つかったら口止めしなきゃいけないからね。


まずは俺の隣の女は名前を「吉行 亜弓よしゆき あゆみ」30過ぎくらいの

めちゃ綺麗な女でとても色っぽい。

職業は夜の商売らしい。

浪漫荘の住人からは普段は|「蜜柑さんみかん」って呼ばれている。

多分、源氏名なんだろう。

たいがいは夜中に酔っ払って帰って来る。


関わるとやっかいそう。


そして蜜柑さんの横の部屋の男・・・こっちは「明智 六郎あけち ろくろう」と言って、なんと私立探偵なんだそうだ。

身だしなみをきちんと整えて恵比寿荘の前に止めてある時代物のベスパに乗って

朝方からどこへともなく出かけていく。


あとピン芸人は芸名を「路面電車」と言ってテレビですら見たことがない。

だからそれ以上は分からない。


そして俺の向かいの部屋の浪人生の「横内 実よこうち みのる」。

部屋からほとんど出て来ないので死んでるんじゃないかと、ちょくちょく

思われて、そのたびに管理人さんが見にくる。

髪が長いみたいだけど一応男性みたいだ。


その隣の部屋は音楽事務所が借りてるらしい・・・そこは今、売り出し中の

アイドルの子が住んでいる。

名前を「小松 麗華こまつ れいか」って言って雑誌やテレビで見たこと

がある。


で・・・一番端っこの部屋。

この部屋、夜中になると女の話し声や鳴き声が聞こえる。

住人みんな聞いていて、みんなが気になっていた。

きっとなにかいる・・・たとえば外国ふうに言うとゴーストとか?

触らぬ神になんとか・・・バニラにもその部屋には近づかによう釘を

刺しておいた。


なんせバニラは見るからに好奇心旺盛そうな子だから。

何にでも首を突っ込みそうだ。


そしてバニラがやって来た次の日の朝。


「おはよう〜、井戸川っち!!」

「朝だよ〜」

「お〜き〜て〜・・・起きろ〜スケベ井戸川」


「あ〜もう誰がスケベだよ・・・朝から賑やかだな・・・うるさいよ」

「やめてくれないか?」

「ここって壁が薄いんだから、大きな声出すと隣の蜜柑みかんさんに丸聞こえだぞ」

「静かに起こせよ」


「蜜柑さんって?」


「隣の部屋に住んでる、おネエちゃん」


「ふ〜ん・・・」

「って言うか井戸川っち、お部屋のお片付けしてたらこんなの見つけちゃった。


「え〜なに?・・・なにを見つけたって?」


「こんなの・・・」


って バニラが親指と人差し指でつまんでるもの俺は見た。


「あ〜・・・ダメダメダメ・・・なに勝手に見つけ出してるんだよ」


それはエッチいDVDだった。

ひとりで住んでるから、誰かに見られる心配がないと思って適当に本と一緒に

立てかけてあったんだ。


「《トックにハメ太郎》ってなに?」

「こっちの《いいタメ、ハメ気分》ってなに? 」


「いいから・・・それはいいから」


「分かってるよ・・・これエッチいのだよね」


「そうだけど・・・なに?観ちゃいけないの?」


「不潔・・・汚らわしい・・・最低・・・」


「なんで死神にそんなこと言われなきゃいけないんだよ、朝からさ・・・」


「嫌い!!・・・私の理想の井戸川っちはそんな不潔な人じゃない」


「待て待て、そっちが勝手に僕を調べて勝手に好きになって勝手に

来たんだろ?・・・なのにそのくらいでなんだよ」


つづく。


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