オチャメな魔族とクリスマスソックス

フィステリアタナカ

オチャメな魔族とクリスマスソックス

 僕の名前はジン。このシャロー王国で王様をしている。この異世界に転生してから、この世界に七夕たなばたやクリスマスの概念が無いことに寂しい思いをしていた。


(そうだ! みんなに協力してもらってクリスマスをすればいいんだ!)


 思い立ったが吉日。すぐさま友人のロンを呼び、クリスマスについて話した。


「ほう。そのクリスマスってヤツは、こっちで言うアテネ派の宗教儀式みたいなもんなのか?」

「うーん。それが一番近いかな、一応パーティーなんだ」

「それで、クリスマスをするのには何が必要なんだ?」

「クリスマスツリーとクリスマスケーキ。あとは願い事を紙に書いて入れる大きな靴下かな」

「ケーキは給仕きゅうじに作ってもらうとして、木はシャローの森から採ってくればいいだろ?」

「そうだね」

「面倒くさいなぁ。タンちゃんに頼むか」

「タンヤオに?」


 ロンには眷属である上位魔族のタンヤオがいる。彼女に頼んで本当に大丈夫なのか不安になった。ロンはスマホのようなモノリスを取り出し、彼女に電話をかける。


「――出ねぇ。あっ、もしもしタンちゃん。お願いがあるんだ、すぐ来てくれ。何? 上位魔族のテストの文章問題がダメで補習を受けているだと? テストは何点だったんだ? 9点か。そりゃ仕方がないな。こっちでクリスマスケーキ食べておくから」


「ふぉふぉふぉ。待たせたな」


 だぶんタンヤオはケーキに釣られてワープしてきたのだと思う。


「主、ケーキはどこじゃ?」

「ん? まだ作ってもらっていないから無いぞ」


「タンヤオ。来てくれてありがとうね」

「王はケーキがどこにあるのか知っているぞよ?」

「まだ、ここには無いよ。クリスマスツリーと靴下と一緒に準備するつもり」

「ん? 王、靴下とは何ぞよ?」

「欲しい物をお願いするために、大きな靴下の中に願い事を書いた紙を入れるんだ。そうすると白髭のやさしいお爺さんが、靴下の中にその欲しい物を入れてくれるんだよ」

「なぬ! 王よ、早くそれを言うのじゃ!! 紙を寄越すのじゃ!」


 僕はタンヤオに近くにあった紙を手渡す。


「はい、これ」

「ありがとなのじゃ! ん? 書くものが無いぞよ。王よ、クレヨンはどこじゃ?」


(欲しい物の絵を描くつもりなのかな)


 僕は机の引き出しにしまっていたクレヨンも彼女に渡す。


「ふぉふぉふぉ。これで願いが叶うのじゃ!」


 タンヤオは上機嫌だ。


「タンヤオは何が欲しいの?」

「プリンをたくさんじゃ!」


(僕の話を聞いていた? 靴下の中にプリンが入るんだよ? プリンに靴下の跡がついちゃうでしょ)


「タンヤオね。プリンみたいな柔らかいやつはダメなんだよ」

「ほう。そうなのか? じゃあ、メロンソーダにするのじゃ! 柔らかくない液体ならば大丈夫なのじゃ!」


(靴下、びっちゃびちゃになるよ。それに甘いから乾いたら大変)


「タンちゃん。願い事を書く前にシャローの森へ行け。オレは大きな靴下を探してくるから」

「ん? 主よ、お願いなのじゃ。わらわは願いを書きたいのじゃ!」

「はあ、しょうがないヤツだな。ジンあとは任せた」


 そう言ってロンは靴下を探しに行った。僕はタンヤオが願い事を紙に書くのを待つ。


「王よ。これでお願いなのじゃ!」


 僕はタンヤオから紙を受け取った。そしてそれを見ると、


『フリン』


(不倫? ああ、なるほど。これじゃテストもできないや)


「タンヤオさぁ。これ『フ』って書いてあるけど、『フ』に丸をつけないとプリンにならないよ」

「なぬ! そうなのか! それを早く言うのじゃ!」


 タンヤオは僕から紙を奪い。丸を書き足した。


『㋫リン』

      

(フに〇って……、フを囲うことじゃないんだけれどなぁ。どうしたもんかな)


 仕方がないので、僕は違う紙に『プ』と書き、タンヤオに教えた。


「王! 凄いのじゃ! わらわはこの文字見たことあるのじゃ!」


(見たことあるなら最初から『プ』って書こうね)


「だから、こう『プリン』って書くんだよ」

「わかったのじゃ! 王、ありがとなのじゃ!」


 そう、タンヤオが言うとタンヤオの目の前に怒り狂っている魔王様が現れた。


「ま、ま、魔王様! わらわは悪い子じゃないのじゃ。お願いをすることができる良い子なのじゃ! 許してくれなのじゃ!」


 そんなタンヤオの叫びも空しく、彼女は首根っこを掴まれて、どこかへと連れ去られたのであった。


(どんまい、タンヤオ。あとでクリスマスケーキを一緒に食べようね)

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