第27話 熊たち4

「ご……ごめん! 悪かった!許してくれ!」

 

 レッサーさんに促されたシロクマはバッと顔を上げ、真直ぐにこちらの顔を見据えると、テーブルに勢いよく頭を叩きつけて謝罪した。その衝撃でレッサーさんのパフェは倒れそうになり可愛らしくオタオタしている。


 シロクマからの謝罪。そこに卑屈な感じは見受けられない。強制され、嫌々謝罪している風でもなかった。その言葉の通り、ただただ素直に「悪かった」そう思っているように見えた。


「あー……まあシロクマの話も聞いてやって欲しいんだ」

 

 傾いてこぼれそうになったパフェを両手で押さえながらレッサーさんがそう言った。

 隣に目線を移すとポツリポツリとシロクマが語り始めた。


「基本的に山や森に住んでるクマ科お前らと違ってオレ……北極圏出身だろ……海氷の上に住んでる。最近結構暑いだろ? オレが居た海氷最近溶けちゃって……その……イライラしてたっていうか……」

 

 話には聞いていた。海氷や雪洞が溶けて狩りが困難になってるらしい。でも……だからって……

 

「だからって許されることじゃない。オレのやったことは、ただの八つ当たりだ。レッサーさんに言われて目が覚めたんだ。本当にすまなかった!」

 

 そう言うとシロクマは再び頭を下げ、テーブルに頭をガンとぶつけた。レッサーさんはそれを予期していたのかパフェのグラスをテーブルから浮かせて避難させていた。

 隣のジャイアントパンダ君と顔を見合わせる。

 遺恨がないわけじゃないが……大のクマ科がここまで頭を下げているのだ。ここで許さなきゃクマじゃない。


「頭上げてくれよ。確かに色々あったけど……オレ達クマだろ? ちょっと小突かれたくらいなんでもないさ」


 ジャイアントパンダ君が言う。

 もっともだ。オレ達はそんなにヤワじゃない。


「ああ。コレからは仲良くやっていこうぜ」


 オレも許そう。なんてたってここにいる全員が絶滅危惧種なのだから。

 チラリとシロクマの口元を見ると白い毛が赤く染まっている。どうにも痛々しい……コレは言うべきなのだろうか……


「あのレッサーさん」


 オレは意を決して口を開く


「どうしたの?」


「たしかに今回丸く収まったのはレッサーさんのおかげです。それは感謝してます。頼んでおいてこんな事言うのも違うって分かっています。でも……」


 シロクマの口元を指差して言う。

 

「コレはやり過ぎだと思うんです。オレ達、別に痛めつけて欲しかったわけじゃ……」

 

「え!? ああ。違う違う!」

 

 レッサーさんはビックリしてスプーンをテーブルに置き、顔の前で可愛らしブンブンと横に振った。

 

「コイツ……キミらが来る前にナポリタン食べたんだよ。口の周りの赤いのはケチャップさ。オレが笹パフェ食うか? って聞いたら「肉食なんで」って断ったのにだぜ!?」

 

 レッサーさんはとても憤慨してるようだった。


「いやぁ……でも笹は食えないっすよぉ」

 

 そう言ったシロクマのバツの悪そうな顔があまりにも可笑しくて皆で笑ってしまった。


 

 

 

 


 ※レッサーパンダはイタチ科。クマじゃない


 ※ツキノワグマもワシントン条約保護対象動物です

 

 ※レッサーパンダは元々肉食です。結構気性が荒いです。

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