第13話 エロ本

高校性……

 誤字ではない。高校『性』の頃の話だ。

 男子高だった私はひどく持て余していたものがあった。


 性欲だ。


 周りに女人などいない閉鎖空間。

 学校の校門の前に女生徒が立っていようものなら、皆窓から体を乗り出し、はやし立て、奇声をあげ、トイレットペーパーを紙テープのように乱れ飛ばしていた。(本当です)

 そんな学校の生徒に彼女など出来るはずもなく……私は、ただ悶々と毎日を過ごすのみだった。

 唯一……当時の私にオアシスと呼べる存在があったとするならば、友人達から回ってきたエロ本だった。

 手垢まみれのそのエロ本は折り目がつき


 ふむ……皆ここで癒されたのだな。


 と分かってしまうのが少しだけイヤだった。

 かくいう私もその折り目がついていたページがお気に入りだった。そのページの女性の名前を今でも覚えている。

 亜梨沙だ。

 亜梨沙は私にとっての女神であった。

 しかし、やはりどんなものにも『飽き』というものがあるのだ。

 ある日突然、私はそのエロ本に飽きてしまった。気分がノらなくなってしまったのである。

 しかし募っていくのは有り余る性欲。


 どうしたものか……


 日々エロ本とにらめっこをし……私はある一つの結論にたどり着く。

 私はエロ本に飽きた・・・・・・・のであって亜梨沙に飽きたのではない・・・・・・・・・・・・ということに。

 そう……私は違う亜梨沙が! 違うシチュエーションの亜梨沙が! 違うコスチュームに身を包む亜梨沙を見たかったのだ。


 非常に困難な状況だった。

 ネットが普及している今ならばスマホで簡単に違う亜梨沙を検索出来たかもしれない。

 しかし当時はまだネットなど、それほど普及もしておらず家にパソコンもなかった。


 新しい亜梨沙が見たい!


 私は性欲を超え、もはやその思考に日々を支配されていた。


 解決策を思い付いたのはマンガを読んでいる時だった。友人が私にあるマンガを貸してくれたのだ。

 それは、エロマンガだった。

 しかし当時の私はエロマンガを見下していた。


「イヤ……絵じゃん……」と。


 欲情が掻き立てられることもなく、ただボー……と、そのエロマンガを流し見していた。が、そこで突然思い付いてしまったのだ。

 

 そうだ! エロマンガだ!


 このマンガのように自分で新しい亜梨沙を描いてしまえばいいのだ。

 深夜のテンションも相まって私は寝そべった状態から飛び起き、机にかじりついて絵を……亜梨沙を描き始めた。

 私は手垢まみれのエロ本をお手本に稚拙な絵を必死に描き続けた。

 顔を描き、オッパイを描き……尻を描いた。

 が、そこで一つのことに気付く。

 コレはあくまでエロ本でありヌード画ではないのだ。

 となると……チ〇ポを描かなければならない。

 私の理想のシチュエーションを描く為には少なくとも8本のチ〇ポが必要だった。

 エロ本を見るとモザイクがかかっており見本として描くには向いていなかった。

 見本……見本か……あるにはある。

 私はズボンとパンツを脱ぎ捨て私の『私』を変身させると、机にまたがってチ〇ポを描き始めた。

 なるほどこうなっているのか。と新たな発見もあった。


 ここで誤解して欲しくないのは、これはあくまで思春期まっただ中の高校性だったから。もう一つは深夜ブーストせいで正常な判断力を失っていたからだ。普段の……今の私は決してこんなマネはしないということ……


 それが証拠に8本目のチ〇ポを描き終わると同時に私は正気に戻ってしまった。


「なにをやってるんだオレは……」


 深夜ブーストが切れ、下半身丸出しで机にまたがりチ〇ポを描いていた今の自分の状況に絶望した。

 亜梨沙の方も落ち着いて見ると酷い出来だった。描いている時はテンアゲで


「イケるんじゃね? これイケるんじゃね?」


 と必死に描いていた亜梨沙はほとんど怪物だった。

なんの奥行きもない胸と尻に欲情など出来るはずもなく、私の『私』は一気に萎み。この制作活動は幕を下ろした。



  そんな事件も忘れた高校3年生の冬。

 私は友達のD君と猥談をしていた。

 

 D君はウチの学校では珍しい彼女持ちの勝ち組野郎だった。付き合って1年。もちろん『経験』のあるD君の話は当時の私にはとても楽しく勉強になり、将来に必ず参考にしようと思っていた貴重な時間だった。

 

 そんなD君がその日

 

「いやぁ……しかし、最近マンネリだわぁ」

 

 とけしからんことを言い始めた。

 

「お前……彼女いるのにそんなこと……」 

 

「いやぁ……そうは言うけどなー……なんか刺激が欲しいんだよ。こう……なにか新しいなにかが! あー……3Pとかしてみてえなぁ」

 

「お前wwそこまでモテるわけじゃねえだろww」

 

「いやいや……別に男男女でもいいんだよ」

 

 そう言うとD君はチラリと私を見た。私は心臓がはねた。まさかD君は私を誘っているのか? 経験のない私はD君のその視線に期待と不安を覚えた。

 

 

「10P……とかさ。女一人の男9人みたいな?」

 

「ハハハいくらなんでも男多過ぎだろwww無理じゃね?」

 

「いやぁ……あったじゃん? お前んちに10Pやってる絵がさぁ」

 

 D君はいやらしく口角を上げニチャアと私を見て笑った。

 足が震えたのを覚えている。

 

 彼は! あの日私が描いたあの亜梨沙の事を言っているのだ! と瞬時に分かった。

 

「は、はあ? なに……そ、それ……」


 私はD君から離れた。

 そう……あの日、私は亜梨沙を破棄することなくベッドに下に隠していた。捨てた時に母親に見られることが怖かったのだ。


 私はD君から距離を取りそのまま卒業。以来、彼とは一度もあっていない。

 だが、いつか……彼がこの話をネタに私を脅してくるのではないかとずっと怯えていた。


 今日ここで黒歴史を放出、公開し、この黒歴史に終止符を打とうと思う。

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